いつも空は、曇りときどき晴れ

自分史、人生曇り空ばかりだけど、ときどき晴れがちょうどいい時もある

寡黙と内弁慶〜小学1年

幼稚園を卒園して、安全基地である家や近所で過ごすことになり、とてもほっとしたのを覚えてる。

近所の子供らやまゆみちゃん、兄と一緒に遊ぶのが一番楽しかった。

でも、そんな安心する生活はすぐに終わり、春に小学校に入学することになる。

 

小学校の建物を見ただけで足がすくんでいた。

心臓がばくばくしていて、恐怖心の塊だった。

まゆみちゃんは1年1組で、私は1年3組だった。

終わったと思った。

唯一しゃべれる相手がクラスにいないのだ。

 

教室には40人のクラスメイトがいた。

担任の先生は、若い女性の向山先生だった。

優しそうな雰囲気の先生で少し安心した。

 

でも、若くて新人先生のせいか、必死になる傾向があった。

その必死さが逆に私を追い込むようになる。

 

毎朝、40人の名前を先生が呼び、返事を確認してから出席簿に記入する。

この時間が一番嫌いだった。

なぜなら返事をしなければならなかったから。

大勢の前で1人返事することが、当時の私にとって高い高いハードルを飛び越えるぐらい難しかったからだ。

 

自分の名前がもうすぐ呼ばれる…

どうしよう、どうしよう…

声がでますように、声が出ますように…

 

「スゲノジュンカさん…」

 

「………………」

 

うるさかった教室が一気に静まり返った。

クラスメイトらが不思議に思ったのか私に注目する。

皆んなに見られてる。

自分の顔面が赤面するのが分かった。

返事を、返事を、しなければ。

 

担任の先生は私の名前を何回も呼ぶんだ。

そのたびにクラスメイトから異様な目で私を見る。

 

緊張しすぎて、恐怖心が強くて、恥ずかしくて、声がまったく出ない!!

 

涙目になって赤面する。

 

担任の先生が言った。

「スゲノさん、返事ぐらいできるようにしましょうね、簡単なことですよ。」

 

簡単なことですよ……

 

当時の私にとっては、簡単なことではなかった。

学校という大きな建物に、教室には見知らぬ子供らが大勢いて…

 

簡単なことではないんです、先生。

 

 

昼休みは1人で過ごした。

女子は塊になって移動したり、塊になっておしゃべりしたり、塊になって群がる。

教室が危険区域に思えた。

はやく安全基地に行きたい。

机の上でぽつんと一人ぼっちで過ごした。

 

この頃、私は逃げ道を探していた。

この危険区域の場所から逃げられる方法を。

そう、私の空想や想像はこの時から始まった。

空想や想像の世界にいることで、現実逃避ができる。

机の上で一人ぼっちで空想したり、想像したり、我を忘れて非現実的世界に浸っていた。

危険区域なんて完全に忘れてしまうほどだ。

幸い想像力はある。

安全基地での出来事を思い出して、1人でニンマリする。

こうして、声が出ないもどかしさを想像力で紛らわせていたのだ。

 

 

友達は、できなかった。

 

 

しゃべらない人や自己主張できない人やつまらない人は、誰にも存在すら気づいてもらえない。

 

学校に入って気づいたこと。

私は、寡黙で内弁慶だ。

どうしよう…

 

 

鮮明に覚えていること。

図工の時間。

私は忘れ物をしてしまった。

授業で使う折り紙だ。

 

この世の終わりになる感覚を覚えている。

 

忘れ物をした人は、大概友人や隣の人や班の人に物を借りる。

 

一大事だった。

 

私は、図工の授業で作業に取りかかれず、心臓をばくばくさせながら横をチラチラと見た。

私の隣の席には勉強ができる安達くんがいた。

 

(安達くん、折り紙をかしてくれる?)

 

心で思っていても、絶対他者には伝わらないと気づく。

 

1限目の授業が終わり、2限目になる。

2限目も図工だ。

 

安達くんがチラチラと私を見るようになる。

どうやら安達くんは私の心境を察してくれたようただ。

安達くんは、勉強ができる上に気立てが優しく鋭い子だった。

 

「スゲノさん、僕の折り紙つかいなよ。」

 

安達くんの言葉にどれだけ私は救われたことだろうか。

安達くんのことは今でも忘れられないほど、私にとっては唯一心許すクラスメイトだったかもしれない。

安達くんが無理やり私に折り紙を渡す。

私はペコっとおじぎをした。

 

でも、そんなクラスメイト同士のやりとりを不満に思った人がいる。

向山先生だ。

 

「スゲノさん、人から物を借りるときにはどうするんですか?……自分の口から安達くんにお願いしなければいけません……自分で言うのです!」

 

安達くんの顔が見つかってしまったという表情に変わる。

 

クラスメイトの皆んなが、また私に注目する。

皆んなは作業を止め、沈黙の中で私を見る。

 

あがり症の自分。

 

赤面し涙がにじむ。

 

「………あ、あ……」

 

私の小さな発音が出た。

発音を出しても言葉にならない。 

教室中が静まり返る。

羞恥心と恐怖心でいっぱいだった。

向山先生は、私のためを思い自分で言う大切さを必死に言っていた。

なかなか言葉にならない私に対し、向山先生は粘り強く待つ姿勢だった。

待てば待つほど、クラスメイト全員に注目されひそひそ話が聞こえてくる。

ますます緊張が増して、言葉にすることができなかった。

声が出ない……

 

「スゲノさん、前に来なさい!」

 

向山先生が待ちくたびれた様子で怒った口調で言う。

私は足をガクガクさせながら教壇の前まで歩いた。

教壇の前で向山先生が私を叱る。

クラス全員がそれを見ていた。

 

「スゲノさん、人に物を借りるときは、ちゃんと言わなきゃ…スゲノさんが安達くんに言わなければ、物は手に入りません、スゲノさんが言わなきゃ意味がないんですよ。」

 

クラスメイトが作業を止め私を注目する。

 

(だって、だって、声が出ないんです…先生)

 

私は席に戻った。

向山先生に言われたからには、自分で言わなきゃ。

安達くんの様子を伺いながら、いつ言おうか、いつ言おうか……そればかり考えて必死だったのを覚えている。

 

安達くんは、私を気にしつつ目配せをする。

貸してやるよって。

がんばれって。

声を出せよって。

安達くんは気長に私を待っていてくれたけど、私はとうとう言葉にすることができなかった。

チャイムの音が鳴った。

音を聞いて内心ほっとした。

 

図工の時間が終わった。

また、私は向山先生から呼ばれた。

 

「スゲノさんは、どうしても話せないのですか?

話さなきゃ、誰にも伝わらないし、誰もスゲノさんのことを理解しようとする人はできませんよ。」

 

先生、私は幼稚園の頃から、ずっとそう感じていました。

声をださなきゃ、相手には伝わらないと。

でも、学校ではどうしても声が出ないんです。

先生、ごめんなさい。

先生、ごめんなさい。

 

いつからか私はクラスメイトや担任に申し訳ない気持ちが膨らみ、自分の至らなさを感じとるようになった。

 

 

私は、一人ぼっちの小学生活を送ると思っていた。

まゆみちゃんは、おとなしめの子で真面目な子だったけれど、私より強く出ることができた。

まゆみちゃんの負けず嫌いな性格がプラスになっていたと思う。

男子に口答えをするぐらい強かった。

まゆみちゃんには、友達が4人くらいできていた。

私は、まだ友達はできていない。

小学1年は一人ぼっちだったような気がする。

 

 

でも、私は近所の近くに住む藤原くんに目をつけられるようになる。

藤原くんは同じクラスメイトで家が近い。

藤原くんはガキ大将だった。

子分を何人か従えていた。

 

「スゲノ、お前は今日からオレの子分だ!」

 

藤原くんの言いなりになるようになった。

藤原くんはサッカーが好きでいつもサッカーボウルを持っていた。

兄が私を外へ連れ出していたけど、今度は藤原くんが私を外へ連れ出していくようになる。

 

ベースボールのルールやサッカーのルールを教わった。

藤原くん大将に引率する子分ら。

威張り藤原、気弱ゆうじ、警察官の井森、警察官の藤山、靴職人の私、さき、美容院りょうこ。

皆んなでサッカーをしたりベースボールをしたり、ドッチボールをしたり。

ザリガニ釣りや凧揚げ、探検。

遠方を皆んなで自転車で走り回った。

兄から離れて、同級生と遊ぶ機会が増えた。

それでも、近所の子らと兄と遊ぶ方が断然楽しかった。

話せたからだ。

藤原くん集団では、緊張して話せなかった。

 

この頃から自分の安全基地は家や近所の子ら、まゆみちゃんだと思うようになった。

小学校は嫌いで嫌いで仕方がなかった。  

寡黙と内弁慶は、私のコンプレックスになっていく。