いつも空は、曇りときどき晴れ

自分史、人生曇り空ばかりだけど、ときどき晴れがちょうどいい時もある

告白…28年今もつづく平仮名の葉書

プール開き以来、

藤本さんが皆んなと一緒にプールの授業を受けられないかと思っていた。

女担任はあてにならない…

保健室の先生が言っていたことを皆んなにも伝えなければ…

でも、どうやって?

私は引っ込み思案で、慣れた人にしか上手く話せない。

一対一なら、たくさん話せるのに、集団の中では話せなくなる。

どうしよう…

1人ひとりに伝えていけばいいのか…

保健室の先生に来てもらうようにすればいいのか…

私の頭はぐるぐる回っていて、どうすればいいのか分からなかった。

でも、あるクラスメイトの言葉が突き刺さって、自分でもよく分からないけれど、居ても立っても居られず、思わず挙手をしてしまった。

 

「明日もプールだけど、ばい菌の藤本は学校を休めよな!」

 

帰りの会の時に聞いた言葉だった。

何も考えずとっさに挙手をする私。

(私は、一体何をしているんだ…)

私の右腕はプルプル震えていた。

足もプルプル震えていた。

私の挙手に気づいた日直が私の名前を呼ぶ。

クラスの皆んなから注目を浴びてしまうことになった。

 

恥ずかしい…

逃げたい…

 

私の顔面が赤くなったのに気づいた。

言うんだ、言うんだ…

がんばるんだ…

 

私は震えた小さな声で言った。

教室の隅にいる生徒には聞こえないほどだ。

 

「あ、あの、保健室の先生に聞いたら、藤本さんの足は生まれつきのもので、ばい菌なんていません、だからプールは入れます…」

 

私の発言の後、クラス中が騒ぎ出した。

 

「藤本の足は見ただけでエグいんだよ、気分悪くなるやつだっているだろう!」

 

「藤本は毎日同じ服着てくるし、汚ねぇんだよ、不衛生だ。」

 

「足もそうだし、すべてが醜いね、醜いの嫌いだわ〜頭がすげぇ悪いし、プールの授業についていけないんじゃねぇか。」

 

クラスの男子からの抗議が聞こえた。

クラスの女子は聞かないふり見ないふりをする。

 

(醜い醜いって言う君が一番醜いよ!!)

 

生まれて初めてクラス全員の前で訴えた。

怖かった。

足が震えてとまらない。

私が勇気を振り絞って訴えても、皆んなには伝わらないんだ、伝わらないんだ…

涙目になって席に静かに座った。

私には、何もできなかったよ。

わかってもらえなかったよ。

 

その時だった。

藤本さんが挙手をした。

私とは違い、堂々として右腕をぴーんとまっすぐ伸ばす。

クラス中がまた騒然とした。

藤本さん…どうしたんだろう。

威勢良く起立する藤本さん。

クラス全員に体を向けた。

藤本さん…

 

「クラスの皆んなに伝えたいことがあります…

藤本アヤコは、生まれつきの知的障害です…

漢字が書けません、漢字は少し読めます、

ひらがなとカタカナは書けます、

文章はスラスラ読めません、

計算は足し算、引き算、掛け算ならできます……

足のアザは生まれつきで、ばい菌はいません…

クラスの皆んなにいつもいつも迷惑をかけていて、本当にごめんなさい、ごめんなさい…」

 

私は、藤本さんの告白を聞いて感動していた。

自分の障害をしっかり受け止め、少しでも周りに理解してもらおうと、自分から皆んなに寄り添っている姿勢に…

どんなに酷いことを言われても、藤本さんは気にしない。

理解してもらおうとがんばっている。

潔く、潔く…

私のなんちゃって発言なんかより、藤本さんの告白がクラスメイトに応えたんじゃないだろうか…

そうあってほしい。

 

沈黙が続く。

 

「時間だ!帰りの挨拶して解散するよ!」

女担任が邪魔をする。

日直が号令をかけて帰りの会が終わってしまった。 

 

藤本さんの告白…すごっかた。

「じゅんかちゃん、ありがと、アヤコがんばって皆んなに言えたよ、ありがと。」

 

そんなこと…逆だよ。

藤本さんが私を突き動かしたんだ。

寡黙気味で引っ込み思案の私を…突き動かしたんだよ。

それって、すごいことなんだよ、私にとって。

藤本さん、ありがと。

 

「じゅんかちゃん、一緒に帰ろ。」

私は、藤本さんの手を繋いだ。

腕をぶんぶんさせながら一緒に歩いた。

 

いつか、藤本さんの良さに気づいてくれる人が現れるよ、絶対に。