いつも空は、曇りときどき晴れ

自分史、人生曇り空ばかりだけど、ときどき晴れがちょうどいい時もある

28年今もつづく平仮名の葉書…彼女との出会い

小学5・6年生だった時、

こんな私にも友人が2人できた。

千葉カツミくんと藤本アヤコちゃんだ。

彼らの影響で、 

私は寡黙を完全克服することができた。

彼らのおかげで、

私は自分の弱さと向き合うことができるようになった。

彼らの行動から、本当の優しさを身にしみることができるようになった。

 

今回は、藤本さんについて書きたい。

 

小学5年生、11歳。

クラス替えで、

初めてまゆみちゃんと同じクラスになれて、

すごく嬉しくて仕方がなかったのを覚えている。

まゆみちゃんは3歳からの友人で、姉妹のように育った子だ。

たくさんの人に双子だと間違われるほど、雰囲気が似ていた。

5・6年の2年間は持ち上がりだから、2年間同じクラスになる。

嬉しかった。

 

私は、親しみのあるまゆみちゃんと学級委員のゆり子ちゃんと一緒に過ごしていた。

3人ともなんだか雰囲気が似ていた。

類は友を呼ぶ…

おとなしくて落ち着いた雰囲気の仲間…

そんな印象だと周囲から言われた。

3人で放課後よく遊んでいた。

よくゆり子ちゃんの家に遊びに行き、3人で遊んだ…いや、あれは勉強だったと後になって気づく。

ゆり子ちゃんのご両親は品があり、教養のある雰囲気を醸し出していた。

ゆり子ちゃんが学研の教材を出して、皆んなでやろうという…

まゆみちゃんは乗る気だ。

まゆみちゃんもちゃんと学研教材を持参していて、楽しげに教材と向き合う。

ゆり子ちゃんのお母さんは、うちの母とは違い美人で背が高く品があった。

高級なお菓子やジュースを持ってきてくれる。

滅多に食べれないお菓子を食べて喜んだのを覚えている。

ゆり子ちゃん家はすごい、両親もなんか違うなぁ…うちの家とは別世界や…

感激してた。

 

でも、私は2人から離れてしまうことになる。

仲がいいのは変わりはないけれど、一緒に過ごす時間がかなり少なくなってしまったのだ。

ゆり子ちゃんとまゆみちゃん仲間から離れた。

なんだろう…

もっと違うことをしたかったのと、関わってみたい同級生ができたからだ。

 

ゆり子ちゃんとまゆみちゃんは優秀だし、他の同級生に比べ一緒にいて安心感がある。

大人っぽくて、大人みたいな考え方をしっかり持てて、真面目な上に遊びも高度だった。

 

私は、勉強はできない上に嫌いで、大人っぽく振る舞えなくて、低学年並みの遊びを好み、バカなことをして遊びたい盛りだった。

だから2人から離れて違うことをしたかったのかもしれない。

 

 

藤本さんと関わるようになったきっかけを鮮明に覚えてる。

きっかけは掃除の時間だった。

 

最近の教室掃除は終わるのが遅い…

 

誰もが思っていたことだ。

なんで、教室掃除だけ時間がかかるのだろうか…

 

理由は、藤本さんの椅子と机だけが取り残されていたからだ。

教室掃除は、全部の机と椅子を片面に運んでから掃除をする。

でも、藤本さんの机と椅子だけは運ばれない。

藤本さんの所有物は不潔だから触りたくないと皆んなが言っていた。

校門掃除当番の藤本さんが走って教室にやってくる。

藤本さんは、教室掃除当番がやらなければいけないことをやるのだ。

自分の机と椅子を必死に運ぶ藤本さん。

藤本さんは目に涙をたくさん溜めていた。

 

その光景そのものが…私の胸に突き刺さる。

教室掃除当番の人は?

教室掃除当番の人は確か12人くらいはいる。

皆んなが藤本さんの机から避難しているのが分かった。

男子の半分は笑う。

真面目な男子や女子らは、見て見ぬ振り…

気づかないふりをして、善人ぶる人が多い。

 

その時、廊下掃除当番だった私。

私も同じく見て見ぬ振りをする善人ぶる人にすぎなかった。

廊下掃除当番だとしても、

本人の机を藤本さんが運ぶより、私が運んだ方にいいに決まっている…

でも、勇気がなかった…怖かった。

また、小学3・4年に受けた単独いじめを受けるはめになるかもしれないと…

恐れてしまった。

 

 

単独いじめを2年間受けていた頃。

孤独だったあの時、人への不信と恐怖を感じていた私に救世主が現れた。

小学4年の時、千葉カツミくんの本当の優しさを目の当たりにしてから、私の中で人を見る角度が180度変わったのを覚えている。

人は捨てたもんじゃないと…

千葉カツミくんのおかげで、少し希望が持てたのだ。

 

 

いじめを受ける側の痛みと、他者から手を差し伸べられる救い感を味わった私は、小学5年で成長したと思う。

当時は、まったくそんな自覚はなかったけれど、今振り返るとそう思える。

寡黙気味で引っ込み思案な私が、大胆な行動をとるようになった。

皆んなにとっては小さな小さな行動にすぎない。

私にとっては、勇気を振り絞った大胆な行動だったんだ。

一つ一つの行動が、命がけだったくらい必死だった。

 

 

来週から、私は教室掃除当番になる。

藤本さんの机と椅子をどうしようか…

教室当番は、誰も運ばないだろう。

また、藤本さんが泣きながら走ってきて、自分の机と椅子を運ぶんだ。

藤本さんが涙を流して…

 

私は、教室掃除当番だ!

 

月曜日になり、私は教室掃除当番になった。

もう、迷いも考えもしなかったと思う。

当時、とにかく藤本さんの机と椅子を運ぶことしか頭になかったのは覚えている。

自分もまたイジメに合うかもしれない。

怖いけど、また耐えればいい。

我慢強さには誰にも負けない自信があった。

 

掃除の時間だ。

クラスメイトが一斉に自分の机を運び、持ち場へと向かう。

教室の床を掃き、雑巾で水ぶきをする。

いよいよだ。

もう、藤本さんに恥をかかせることはない…

机と椅子を教室の反対側に運ぶタイミングになる。

私は、待ってましたと言わんばかりに、率先して藤本さんの机と椅子を誰よりも早く運び出す。

誰の机よりも一番に運ぶ気持ちで。

 

「ガッははは〜ガッははは〜、スゲノが藤本の机を運んでるぜ!見ろよ、見ろよ!」

 

PTA会長の息子、英太郎だ。

クラスメイトがどんどん集まってきて…

とんでもない騒ぎになった。

教室掃除当番以外の人も集まる。

野次馬みたいに。

 

クラスメイトの大半が大笑いしていた。

特に男子は馬鹿笑いしていた。

なぜ笑うのか、よく分からなかった。

私は、藤本さんの所持品が落ちていたので、すぐに拾い机の中へしまった。

「きたねぇ…」

「きたねぇ…」

教室では、そんな言葉が聞こえてきた。

 

そこへ、慌てて走って教室にきた藤本さんがいた。

藤本さんは私の腕をつかむ。

「アヤコが運ぶから…アヤコが運ぶから…」

必死に藤本さんが言った。

 

藤本さんのそんな言動を見て、私は何かが吹っ切れたのを覚えている。

イジメなんて、怖くない。

味方が1人でもいれば十分。

藤本さんの言動が私を変えた瞬間だった。

藤本さん、ありがとう。

私を気にして自分で運ぶと言い張っているんだね。

もう、大丈夫。

 

私は藤本さんの手を振り払った。

「私は、教室掃除当番だから……」

 

藤本さんに小声で言う。

 

英太郎が大絶賛するかのように大声で叫んだ。

「いやぁ〜はやぁ〜まさか、スゲノのが!!あははは〜おもしれぇ〜そんなら、今日からスゲノは藤本係だな、任命する!!」

 

クラスメイトが騒ぐ。

さらに大笑いする。

バカ笑いする。

 

藤本さん係、喜んで受けますよ。

英太郎、任命してくれて、ありがとう。

私は藤本さんに近づきたいと思っていたんだ。

ちょうどいい。

 

それから、私は教室掃除当番以外の持ち場でも、毎日藤本さんの机と椅子を運ぶようになった。

藤本さんがやっていたように、持ち場から走って教室に行き、藤本さんの机と椅子を運ぶのだ。

藤本さんは自分で運ぶと言い張っていたけど、私は頑なに断った。

気を遣わせずに、任命されたからと…言った。

 

だって、誰も運んでくれない自分の机と椅子を自分で毎日運ぶなんて、嫌だよ。

私なら嫌だ。

 

私も、以前みじめな気持ちになって辛かったから…

辛かったから…

藤本さんに同じ思いをさせたくなかっただけだ。

ただ、それだけだった。

 

この騒動がきっかけで、私と藤本さんは仲良くなった。

 

 

私は、藤本さんを知りたいと思うようになった。

なぜ、藤本さんはクラスメイトからイジメを受けているのか、知りたくなった。

 

藤本さんは、先天性の軽度知的障害だとわかった。

藤本さんが小学校に入学するとき、

親御さんは、特別学級ではなく普通学級を強く望んだという。

小学6年まで普通学級で過ごした藤本さん。

ハンディキャップを抱えながら…

藤本さんは軽度の知的障害があっても、人の心の痛みを理解し、思いやりがあり、人間関係において全く問題のない子だったんだ。

 

 授業の国語の時間。

藤本さんにとって、どれだけ大変な時間だったか想像する。

私の得意な想像力のおかげで、藤本さんの辛さが伝わる。

文章をすらすら読めない。

句読点や濁点などは区別できない。

漢字が読めない。

漢字が書けない。

 

国語の時間は、クラス全員がイライラしていた。

「藤本さんがいるから、先に進めない!」

 

それでも、めげずに一生懸命に文章を読む藤本さん。

正直、何を言っているのかが分からなかった。

クラスメイトからブーイングを受ける藤本さん。

誰かが言った。

 

「藤本さん、特別学級なら隣にあるよ、いったら?」

 

ハハハッ〜ハハハッ〜

皆んなが笑う。

毎日、こんな言葉を受けていた藤本さん。

 

それでも藤本さんは泣きながら、

国語の教科書を一生懸命読もうと頑張っていた。

でも、小学5年の教科書を読むことは藤本さんにとって難易度の高い壁だったんだ。

担任の女教師は、毎回大きなため息をつく。

「藤本、もういい、やめろ、はい、次の人!」

 

私は、拳をかたくかたく握った。

 

なぜか怒りが込み上げてきた。

 

私は、自分から小学校の図書室へ行ったことがなかった。

生まれて初めて図書室で調べたいと思ったのが、この時だった。

藤本さんについて知りたかった。

知的障害について。

でも、知的障害に関する本はほとんどなくて、あっても意味が分からない内容だったのを覚えている。

 

難しすぎるわ…

 

そんなところに、一冊の絵本に目がとまる。

小学低学年向けの絵本に近い本だった。

 

「さっちゃんのまほうの手」

たばた せいいち 作

 

先天性四肢欠損の小学生の話。

 

図書室で何度も何度も読んだのを覚えている。

涙がとまらなかったのを覚えている。

さっちゃんの気持ちと藤本さんの気持ちが同じだ。

藤本さんも、さっちゃんみたいな気持ちで毎日学校に来てたの…

藤本さんの心情が…この本を通して…分かるんだ。

 

 

帰宅して、父親に質問をする。

「知的障害って、何?  治らないの?」

父親は、ありったけの知識で答えてくれた。

 

治らないものだと知る。

 

だけど、父親は大切なことを言ったのを覚えている。

 

「知的障害だからって、何さ、人には変わりはないだろう、特別扱いする必要ないんじゃないか、周りの子と同じように接すればいい、深く考えるな。」

 

「お父さん、でも、漢字や計算、文章も読めないんだよ…このまま大人になって生活していけるの?」

 

私の素朴な疑問だった。

 

父親はしばらく黙っていた。

それから、ゆっくりと言った。

 

「じゅんか、生活していく上で必要なのは、思いやりの心と、最低限の伝達する工夫だよ、あとは買い物する為に計算は少しできないとな。」

 

そうかぁ、そうかぁ。

学校の勉強は難しすぎるんだよ。

生活していくために困らない最低限の知識を勉強すればいい。

そうだよ。

 

 ある放課後。

藤本さんが遅くまで宿題をしている。

藤本さんがやっていた宿題は、小学3年の漢字。

机に向かって泣きながら宿題をしている。

 

「アヤコ、漢字全然わからない、練習してもできない…アヤコには難しい。」

 

藤本さんが小学3年の漢字を書きとることは、小学生が東大に受験することに匹敵するくらい難しいことだった。

 

それでも泣きながら漢字練習する藤本さん。

 

あの時、とっさに出た言葉がある。

何の根拠もなかった。

今振り返ると、根拠もない言葉が果たして良かったのかどうか疑問だ。

 

「藤本さん、漢字を書く練習…しなくてもいいんじゃないかな…」

 

藤本さんが驚いたように顔を見上げ私を見つめた。

「だって、漢字書けなきゃ、怒られるもん。」

 

私は、藤本さんの近くに駆け寄った。

「私さぁ、漢字より平仮名が好きかな…平仮名でもちゃんと分かるよ…分かる…平仮名は丸っこくて可愛いじゃない?」

 

私の言葉が、後々藤本さんにかなり感化することになろうとは当時予想にしなかった。

 

以来、藤本さんは、漢字練習をやめてしまった。

代わりにカタカナを書く練習をはじめた。

 

ひらがな…

大人になった今でも漢字よりひらがなが大好きだ。

でも、私は気づく。

漢字は書けなくてもなんとかやっていける…

だけど、やはり生活していく上で最低限の漢字を読めるようにした方がいいと分かった。

生活していく上で困るからだ。

 

「藤本さん、漢字は書かなくていいけど、読む練習はやろうよ…手伝う。」

 

藤本さんと2人で漢字を読む練習をはじめた。

「アヤコね、音読みより訓読みが好き。」

 

「私も、訓読みが好きだな…なんか意味が通るもん。」

 

藤本さんと笑いながら漢字を読む練習をした。

音読みで読まなければならない漢字を、あえて訓読みで読んだりして、2人で笑いながら漢字読みをしていたのを覚えている。

 

藤本さん、生活していく上で必要なのは、平仮名だと私は思う。

だから、堂々としてよ。

 

漢字読み練習、次は四則計算だ。

足し算、引き算はできた藤本さん。

でも、かけ算で苦戦していた。

かけ算は九九を覚える必要がある。

藤本さんは小学5年生でも、まだ九九を覚えていなかった。

 

自宅に九九の歌テープがある。

隣のアキちゃんにもらったものだ。

テープをカセットにセッティングして歌を流す。

 

「藤本さん、一緒に歌を歌おうよ。」

 

下校時間や放課後の時間を利用して、藤本さんと楽しく歌を歌った。

九九の歌。

 

漢字読みと四則計算ができれば、大人になっても生活していけるよね?

 

知的障害者が大人になったら、どうやって生活していくのか関心を持つようになった。

 

 

「じゅんかちゃん、今日アヤコの家に遊びにきてよ。」

 

藤本さんが私を家に招待してくれるという。

藤本さん宅は、小学校から近くだった。

私の家よりボロい一軒家で、うるさい犬を飼っている藤本さん家。

藤本さん宅からすぐ近くに千葉くん家がある。

千葉くん家は、さらにボロい一軒家、トタンでできていた。

お利口な犬を飼っている。

 

なんか、藤本さん家と千葉くん家は似ているかもって思っていた。

 

藤本さん家に入ると、家中雑然としていた。

スゲノ家は貧乏で古い家だけど、整然としていた。

こんなに散らかしていいのかな…

家に入ると、けたたましく足音が聞こえてきた。

 

「うぁ、姉ちゃんが初めて友達つれてきたぁ!」

藤本さんの弟ら7人だった。

 

「わぁぁあ〜すげぇ〜女だ!女だ!」

7人の男の子が騒ぎ出した。

 

藤本さんが大声を出す。

「うるさい!静かにしなさい、姉ちゃんの友達だからね、嫌がらせしちゃダメ!」

 

私は、その時、唖然として藤本さんを見たのを覚えている。

なんか、学校の藤本さんと違うなぁ…

威勢がいい…仕切ってるし…あれ?  あれ?

 

「じゅんかちゃん、アヤコ夕飯作るから、弟達の面倒を見てくれない?」

 

「あっ、あっ、はい…面倒みてる…」

 

藤本さんはキッチンで料理をはじめた。

米を研いで、野菜を切り…炒め…

エプロンをした藤本さんが料理をしていた。

 

野菜炒めとご飯、味噌汁を小さな丸テーブルに置いた。

 

「皆んな!ご飯できたわよ!はやく食べて〜」

小さな丸テーブルに9人の子供が囲う。

密着感があって、なんか、楽しいし、よく分からないけど、藤本さんの料理がおいしく感じられた。

弟らが悪ふざけをすると、藤本さんは怒る。

「こら!ご飯中に遊ばない!」

 

なんだか、藤本さんはお母さんみたい。

すごいや…

漢字は書けなくても、料理ができるじゃないか。

生活していけるじゃないか!

教室では劣等生扱いされているけど、家では違うんだ。

リーダーとして、姉として、長女として、たくましいんだと知る。

 

私は、そんな藤本さんの姿を見て感心したのを覚えている。

藤本さん、すごい子じゃないか!

クラスメイトや私なんかより、大人がやることをやっているではないか!

藤本さんが急に頼もしく思えてきた。

家を仕切る藤本さんは、まさにリーダー素質があると思った。

そして、藤本さんのすごさをクラスメイトに見せたい、知らせたいと密かに思っていた。

 

「藤本さん、近くに千葉くん家があるんだよ、今度一緒に行こうよ。」

私が藤本さんを誘う。

藤本さんはニッコリしてうなづき、丸テーブルにある皿を片付け洗いはじめた。

 

「じゅんかちゃん、両親を紹介するから来て!」

 

藤本さんが夕食後に私を誘った。

 

両親?

大げさな気がするけどな…

藤本さんの両親は深夜まで働いている。

だから、母親の代わりに藤本さんが弟らの面倒を見て、食事を作っていると知る。

 

なんか、私の家と似ているなぁ〜と思った。

 

藤本さんはダンボール工場まで案内した。

ダンボール工場前で待っていると、頭から足先までススだらけの男性が近寄って来た。

肩にたらしていたタオルで顔を拭いて、さらに両手をタオルでよく拭いてから私に手を伸ばした。

 

「はじめまして…アヤコの父親です、うちへよく来てくれました……うちのアヤコをどうか、どうか、よろしくお願いします。」

 

小学5年の小娘に、頭を深々と下げる大人を初めて見た。

 

私は、そっと手を差し伸べた。

父親は両手でガッチリと私の手を握った。

 

「よろしくお願いします、アヤコの友達になってくださり、ありがとうございます。」

 

娘のためにプライドを捨てて、頭を下げる父親は、11歳の私でも美しく見えた。

素敵なお父さんなんだ…藤本さんの。

藤本さんには、あたたかい家族がいるんだね。

 

「藤本さんは私の友達です…友達です…こっちも、よろしくお願いします。」

 

私も頭を深々と下げた。

 

11歳の私の脳裏に焼き付いた映像が、渾身の願いと誠意を見せた 藤本さんの父親だった。

 

藤本さんの父親の願い…

 

幼いながらも感じ取れていた。

知的障害者としてずっと生きていくためには、誰かの支えが必要になると。

だから、藤本さんの父親に誓った。

 

わたしは、ずっと、ふじもとさんの…ともだちです。

 

絶対、忘れません。

 

これが、私と藤本さんの出会いだ。

小学5年、6年生は、藤本さんと千葉くんと一緒に過ごすことになる。

まゆみちゃんやゆり子ちゃんから、離れた。