いつも空は、曇りときどき晴れ

自分史、人生曇り空ばかりだけど、ときどき晴れがちょうどいい時もある

積雪の成人式

看護学生になり、実家を出て東京での寮生活を送っていた時期。

1月15日は成人式。

私が20歳の頃。

管理室から放送が流れる

私の名前が呼ばれた。

私の実家からの電話だった。

「じゅんか、成人式には実家へ帰るでしょう?」

 

「成人式かぁ…う〜ん、やらなきゃいけない課題があるしなぁ。」

 

「成人式は人生一度きりよ、出なさい、まゆみちゃん、村上さんらは袴着て行くよ、じゅんかの袴はこっちで用意するわよ。」

 

「袴は着ないよ、スーツで行く。」

 

袴なんて…美容院にも行かないといけなくなる。

金がかかる。

奨学金で生活している身分で、袴は私にとって贅沢だと当時思ったのだ。

もし、ケチらないで袴を着て行けば、運命の分かれ道で違う選択をしていたかもしれない。

袴ではなく、クタれたスーツ。

この選択がかなり大きかったのだと…

後になって思う。

 

寮のタンスを開く。

確か、スーツがあったはず…

入学式に着たスーツ。

スーツを久しぶりに出して見てみた。

春・夏用のスーツで麻が入っていた。

テロンテロンの古びたスーツ。

コートがなく、薄手のナイロンジャンパーを出す。

スーツにジャンパーかぁ…

正装に見えるかな…

 まぁ、式に出たら終わるからね。

一瞬だ…

 

 

成人式の日は、かなりの雪が降っていて、10㎝以上積もっていた。

傘をさして地元の市役所に向かった。

まゆみちゃんや村上さんと会うのが楽しみだった。

地元を離れて3年。

市役所の近くで2人に再会する。

2人は袴を着ていて、大人びていて綺麗だった。

3人で話が盛り上がった。

再会、こんなにも嬉しいことだと想像できなかったかな。

 

3人で市役所に行く。

会場にはたくさんの人がいた。

なんか、懐かしいメンバーばかりだ…

懐かしい…

皆んなはきゃーきゃー叫び騒いでた。

肩を寄せ合ったり、抱きしめ合ったりしてた。

女子は皆んな袴を着ていた。

きらびやかに着飾れた同級生たち…

スーツの人を探したけど見あたらない。

私だけがスーツかぁ…

皆んな、大人びて綺麗だなぁ。

小学や中学で一緒だった同級生らが、成長して魅力的な女性になった姿を見て微笑ましかった。

 

「まゆみちゃん、私単独行動するから、村上さんと一緒にいて…」

 

1人になりたかったのかな…

なんだろう…

たくさんの袴女性の中にいたくなかったのかもしれない。

自分があまりにも地味すぎて、みすぼらしくて、

急に恥ずかしくなったんだと思う。

 

単独行動しているところに、私に声をかけてくる同級生がいた。

 

「すげさん!!懐かしいね、私を覚えてる?」

 

めいちゃんだった。

めいちゃんは誰よりも袴がよく似合って見えた。

めいちゃん、ますます可愛くなって…綺麗だなぁ。

 

「めいちゃん、もちろん覚えているよ、綺麗になったね、すごい袴が似合ってるよ!」

 

懐かしい…

懐かしい…

めいちゃんは相変わらずだ。

笑い上戸で愛嬌がいい。

 

思い返すと、

めいちゃんから私は刺激を受けたんだ。

同じ人を好きになり、愛らしいめいちゃんに叶わないと思っていた。

だから、モヤモヤの感情や雑念を振り払うためにマラソンをはじめたんだ。

運動嫌いの私をやる気にさせてくれためいちゃんには、感謝だよ。

ありがとう、めいちゃん…

 

式が始まった。

私は空いている前列に座った。

授業や講義でも必ず前列は空いているものだ。

お偉い方の話が長かった。

私は、そっと周囲を見渡した。

懐かしいメンバーが揃っている。

皆んな大きくなって…

成長したなぁ。

 

その時だった。

私の心臓の拍動がうるさくなった。

脈打つ…脈打つ…

脈のフレを触らなくても…感じる。

感じる。

前列の向こうの方に、ダイシがいた…

ずっと、ずっと、会いたくて、会いたくて…

思い出すたびに涙してた人だ。

高校3年間、登校途中で毎日ダイシのマンション前で敬礼してから学校へ行っていた。

毎週日曜日は、スーパーにある小さな書店で会えないかと通っていた。

東京に行ってからも…写真立てにダイシの写真を入れて寮の机に置いた。

写真の前で、辛い勉強をしてた。

辛いときは写真を見て気合いを入れていた。

 

あんなに会いたかった人が向こうにいる。

いる、いる、あそこにいる…

足がガクガク震えた。

寒さと緊張感で…

式の間、私は身を隠しながらダイシをずっと見つめていた。

背が伸びたなぁ…

体ががっちりしてるなぁ…

もうチビじゃないんだな…私を随分と超えたなぁ…

表情は変わらず…あのままだ。

太陽みたいに笑う。

いい笑顔だなぁ…

 

いつの間にか、目尻に涙がたまった。

手で涙を拭う。

また、目尻に涙がにじみでる。

涙がにじみでて、にじみでて…

鼻水をおさえるのに必死だった。

誰にも気づかれないように…

誰にも気づかれないように…

ダイシに気づかれないように…

 

 

私は小学生の頃から、こんな願いをしていた。

今でも変わらない願い。

透明人間になりたい。

子供の頃からバカな想像してた。

もし、透明人間になったら…

堂々と前へ出ていけるから。

堂々と…

 

式に来たけど、本音を言うと、この時こそ、透明人間になりたかったな。

透明人間になってダイシに近づくんだ。

まじまじと顔や仕草などを見たい。

ただ、それだけのために、透明人間になれたらと。

テロンテロンの古びたスーツとジャンパーは、成人式には不向きだったようだ。

1人浮いている。

ダイシの様子が見れただけでも、成人式に来た甲斐があった。

元気そうで良かった。

元気そう…

20歳になったダイシを見れて、嬉しかった。

嬉しかった。

あんなに会いたいと思っていたダイシが、同じ空間にいるのだから…

 

式が終わる数分前に、私は立ち上がり席をあとにした。

 

東京に帰ろう…

こんな格好で実家には帰れない。

心配させる。

このまま帰ろう…

トンボ帰りだ。

 

 

会場は騒然としだした。

どうやら式が終わったようだ。

 

私はひと足先に会場の出口を出た。

帰ろうとするところに呼びとめられる。

 

「すげさん!待ってよ、一緒に写真とろう」

 

小・中・高一緒だったアライくんだ。

 

「すげさん、俺も入れて。」

 

同じく小・中・高一緒だったツカモトくん。

 

3人で写真を撮るはめに…

その間に、人がどんどん集まる。

写真撮影会になってしまった。

 

このあと、皆んなで打ち上げをするという。

元クラスメンバーで集まり食事をするのだ。

透明人間になりたい私は行きたくなかった。

クタれたスーツ姿の自分。

帰りたかった。

 

帰ろう、帰ろう、帰ろう。

 

市役所の出口から外へ出た。

雪がさんさんと降っていて、積雪だった。

身ぶるいがした。

寒い…寒い…

薄手のジャンパーはあたたかさがない。

寒すぎて、凍えそうだ。

 

「すげさ〜ん、すげさ〜ん!!待って、待ってよ、行かないで、待って!」

 

中学3年の同じクラスのノブハルくんだ。

ダイシの仲のいい友人。

 

「すげさん、待って、ダイシがもう来るから…

会ってやって。」

 

ダイシが私に会いたいと?

 

中学卒業式、合わす顔がないと…

ダイシは私に会いたくないとずっと思っていた。

 

心臓の鼓動がはやくなる。

なんで…今なんだろう…

手がかじかむ。

ペロンペロンスーツで再会…

こんな格好で…

地味でみすぼらしくて…

会いたい…

会いたい…

会って話したい。

 

でも、会いたくても会えない。

再会して話したら、

募る想いが溢れてしまうから…

今更、再会しても、もう遅い。

遅いよ!

 だったら…会わずに去るべき…

募る想いが増すくらいなら、会わない方がいい。

私は格好悪い姿でダイシに再会したくない…

 

若い頃の私は、父親の影響や家庭環境、性格・気質から、どうやら恋愛に関しては、大正の女だった。

高校の同級生に言われた。

「スゲノさんって、昔の女みたい…大正時代の。」

 

20歳の私は、まだ自覚が薄く、そんなことはないと思っていた。

 

もし、袴を着ていたら、ダイシと少し話そうと思ったかもしれない。

でも、羞恥心で、

人生の選択肢において、私はダイシのいる道を選ばなかった。

東京で待っている人の道を選んだのだ。

それが、規律だと勘違いしていたから…

 

大正の女魂が勝り、未練を必死に捨てようと、捨てようと…無理に思っていた。

 

「すげさん、ダイシが話したいことがあるんだって、だから待って。」

 

ノブハルくんが必死に言う。

 

寒い…寒い…

「ノブハルくん、もう行かなきゃ、東京に、ごめんね、ダイシに伝えておいて…」

 

 

駅に向かう途中、松尾芭蕉ゆかりの地、松並木がある。

松並木がある道を歩く。

積雪の松並木。

雪を足でかき分けて前へ進む。

寒い…寒い…

 

中学の卒業式の日も、

同じように…

松並木の道を自転車で走った。

あの時は…大雨で…ずぶ濡れになったんだ。

また、こうして、同じ道を積雪をかき分けて歩き、雪まみれになって進むんだ。

涙が溢れ出した。

顔が涙だらけになった。

辛かった。

袴を着て行けば良かったかな…

分からない。

ただ、大正の女だったから…

恋愛はよく分からなかったんだ…

不器用な上に恥ずかしがり屋で、変なところで虚栄心をもつ。

クタれたスーツで再会してもよかったんじゃないか。

でも、もう遅い…当時はそう思った。

 

電車の中で揺れながら、凍えた手をジャンパーのポケットに入れてあたためた。

背筋が凍った。

薄手のジャンパーなんて着る人はいない。

東京に向かう電車に乗りながら、成人したダイシを思い出し涙がでた。

もう…二度と会えないかもしれないのに…

再会するタイミングが遅すぎたんだ。

涙がポツリポツリ…

悔しいな…悔しいな…

 

ずっと…会いたくて仕方がなかったよ

夢にまでダイシがでてきたよ

会いたくて、会いたくて。

 

でも、ダイシの姿を見ることができた。

中学2年の私となんら変わっていない。

13歳から20歳まで。

ずっと変わらず好きだった人だ。