いつも空は、曇りときどき晴れ

自分史、人生曇り空ばかりだけど、ときどき晴れがちょうどいい時もある

高校ライバルは永遠だ

私は、内申点から推薦で大学受験が決まった。

奨学生希望申請も同時に提出する。

大学受験に合格しても、奨学生に選ばれなかったら、私は辞退、不合格を意味する。

 

念のため、学費が無料の東京警察病院附属看護高等学校と防衛医科大学附属看護高等学校も受験する。

ちなみに、東京警察病院は合格、防衛医科大学は身体検査で不合格だった。

 

受験日に覚えてることは少ない。

覚えてるとしたら、

筆記試験の出来の悪さだ。

周囲の受験生が、できた、できた、と話していて、焦りと不安を感じた。

ものすごく絶望的な気分になったのを覚えてる。

もう終わったと…

私は、生物でしくじったのだ。

医療系なだけあって、生物は特に難しかった。

筋繊維の強弱実験についての問題だった。

筋繊維の強弱を測る機械について設問される。

大学の過去問を入手できなかったため、問題傾向を把握していなかった。

お手上げだった。

不合格だと確信した。

 

でも、面接が私を救う。

面接する方は、大学の理事長・校長だった。

理事長と相性が良かったのか、運が良かったのか…

何が合否を分け、奨学生として選んでくれたかは分からない。

ただ、運としかいいようがない。

 

私が中学1年から高校3年までの6年間、どんな人と出会い、どう向き合い、何を感じて、何を学んできたのか…

振り返りながら私の医療職に対する強い想いを伝えたのを覚えてる。

 

内申点は10段階評価で平均9.8

部活動の表彰6点

当時は知らなかったけど、

ボランティア活動2箇所も評価対象らしい

 

あとは、筆記試験の結果次第。

 

 

合格発表の日。

大学の前で自分の名前を探す。

合格だ…

あとは、奨学生に選ばれたかどうか…

緊張してた。

足が震えて…息を飲んだ。

奨学生に選ばれなければ、合格を辞退しなければならない。

 

奨学生…

私の名前が…しっかり書かれてあった。

 

私の名前だ。

何度も確認する。

 

やった…やった…

力が抜けて地べたに座り込んだ。

夢じゃないよね?

夢じゃない…

強者に勝ったんだ…

やった…やった…やったよ…

がんばったな自分…

がんばったぞ自分…

諦めなくて…よかった…

 

私は涙をぬぐいながら走り出したんだ。

あちこち探し回った。

どこにある?

どこに?

どこ?

はやく…

はやく…

探し回った先には、緑の公衆電話があった。

震えた指で10円玉を3枚入れた。

震えた指で番号のボタンを押す。

 

「母さん、私だよ…私だよ…奨学生になれたよ…私やったんだよ…私辛い勉強をやったんだよ…やったよ…」

 

涙をたくさん流しながら母に訴えた。

私の声が震えてた。

初めてだった。

親に自分を認めて欲しいと言ったのは…生まれて初めてだったんだ。

それだけ、思い詰める想いや辛さを抱えてきた。

必死に今までやってきたこと、続けてきたことを親に伝えたかったのかもしれない。

 

電話越しで母が泣いていた。

泣きながら私の話を聴いていた。

母は言葉にならないくらい、泣いていた。

 

受話器を置く。

深呼吸して涙を綺麗に拭き取る。

次に伝える人は決まっている。

覚えた電話番号を押す。

 

「もしもし、イシドリです…」

 

「スゲノです、無事合格し、奨学生を勝ちとりました。」

 

 

 

翌日の学校は、

いろいろな人に声をかけていただいた。

格通知が学校側に届いたからだ。

 

シダ植物先生が授業を始める前に声をかけてきた。

クラスの皆んなの前で。

「スゲノ、合格おめでとう、よくがんばったな!」

握手を求められ、シダ植物先生の手を握った。

「先生のおかげで、生物が好きになりました。」

「あははは〜良かった良かった。」

 

 

廊下を歩いていたら、おじいちゃん先生に声をかけられる。

「スゲノさん、おめでとう…ふぉふぉ…がんばりましたね。」

「ありがとうございます、先生が何度もしつこく説明してくれたおかげで、少しは数学がなんとか分かるようになりました。」

おじいちゃん先生とかたい握手をした。

 

 

国語の授業。

あの若手インテリ先生が笑顔で話しかけてきた。

「スゲノさん、おめでとう、がんばりましたね…

古い問題集をあげた成果が出たみたいですね。」

 

クラスの皆んなが大笑いしてにぎやかになった。

「古い問題集、かなり役に立ちました…先生、ありがとうございました。」

 

 

クラスの皆んなにも声をかけられた。

「すげちゃん、おめでと〜私らは真似できないわ〜あはは〜」

 

 

それから最後に…あのジャニーズ先生。

ホームルーム終了後、廊下に出た私に声をかけてくださった。

「スゲノ、お前は協調性を大事にしなきゃいけないぞ…単独行動ばかりとるな…お前は勉強ばかりしてきたがな、社会に出たら勉強だけじゃ通じないぞ…

まぁ、とりあえず合格おめでとう、よくやったな。」

 

「はい、先生、苦手な英語を教えていただき、本当にありがとうございました。」

私は深々と頭を下げた。

 

先生、分かってますよ…先生のアドバイスをしっかり覚えておきます!

 

 

図書館行きも…とりあえず卒業かな。

自転車置き場へ向かう。

私の自転車の前で、イシドリ君が待っていた。

イシドリ君も部活をせずに帰るという。

 

帰る途中、イシドリ君といろいろな話をした。

イシドリ君の家は駅近にあり、夫婦で接骨院を営んでいるという。

それを聞いて親近感がわいた。

「私の家も自営業で、両親が一緒に靴を作ってるよ!」

 

私もイシドリ君も、生まれてきた時から働く親の背中を見て育ったと…共感し合えた。

 

「スゲノさん、今度、うちに遊びに来てよ、母がスゲノさんに会いたがっているんだ。」

 

イシドリ君は、私の話を母親によくしているという。

 

この話を聞いても、深く意味を考えなかった。

イシドリ君のお母さんに会うのを楽しみにしていた。

 

 

イシドリ君が私に提案をする。

最後になるかもしれないから、

またもう一度、東京の国立図書館に行こうと。

それに、調べたいことがあると。

 

電車の中で2人ドアの窓の外を眺めながら、思いにふけっていた。

電車の中は、すいていた。

イシドリ君も希望する大学に合格していた。

受験が終わった。

今までの苦労や困難を思い返していた。

緊張や疲労感やプレッシャーから解放され、気分が良かった。

その時だった。

ぼけっとする私の手を触れてきたのは。

私の手が包まれて、軽く軽く握ってきた。

びっくりして、イシドリ君を見つめた。

イシドリ君はドアの窓の外を眺めている。

イシドリ君の横顔を見て、私は首をかしげる

 

「イシドリ君、手すりなら空いているから大丈夫だよ…手を離していいよ。」

 

ん?

あれ…イシドリ君は無言のまま私の手を離そうとはしなかった。

違和感を感じる。

何だろう…

おかしい。

 

帰り際、イシドリ君とわかれるとき、イシドリ君は言った。

「スゲノさん、今週の日曜12時に◯◯駅南口で…母がスゲノさんの好物の唐揚げを作って待ってるから、じゃあ。」

 

 

なんか、いつものイシドリ君らしくない…

変だ…違和感を感じる。

変だ…

 

 

学校にはカップルがたくさんいる。

廊下や教室で男女がベタベタする光景。

イシドリ君のことがあってから、カップルをよく見るようになった。

ベタベタ、イチャイチャかぁ。

手を握り合うカップルも見た。

手を握り合う…

 

中学の時、恋をした経験はある。

でも、その先を知らなかった。

カップルになってベタベタしていくもんだと何となく思ってた。

共学の高校にいれば分かるようになる。

 

えっ?

まさか…イシドリ君が?

そんなはずはない…

 

「スゲノさん、受験終わったから、イシドリ君と堂々と付き合えるね。」

クラスメイトが言う。

 

付き合う?

イシドリ君と?

 

付き合う=イチャイチャ

やっと分かった…

男女が手を握り合うのもイチャイチャだ。

 

…………違和感だ

 

 

帰宅し、頭が呆然としていた。

自分の部屋にこもった。

電車の中での出来事を思い出していた。

なんで…

違うよね?

頭が回らない。

 

「じゅんか、電話だよ、イシドリ君だよ。」

母が私を呼ぶ。

正直、電話に出たくないと思ってた。

どうしよう…どうしよう…

身の置き場がない気持ちで電話に出る。

「もしもし、スゲノです…」

「…………」

 

 

自分の部屋に戻った。

イシドリ君の私に対する感情を知った。

涙があふれてきた。

布団の上に顔を伏せて泣いた。

また、泣いているところに兄が部屋に入ってくる。

「じゅんか、筋トレ…あれ?泣いてんの? 青春してるのかぁ〜もしかして、失恋かぁ〜」

 

「兄ちゃん、向こうに行って!

1人になりたい。」

 

辛かった。

痛かった。

もしかしたら、大切なライバルである友人を…

失うかもしれないからだ。

高校の大事な友人を…

イシドリ君を大切に思うからこそ、辛いのだ。

イシドリ君を傷つけたくないのに!!

傷つけたくないのに!

どうしよう…どうしよう…

 

 

数時間過ぎただろうか…

真っ赤な顔で涙を綺麗に拭き取り、意思をかためた。

私は、引き出しから便箋を取り出した。

イシドリ君に手紙を書く。

中学の時に書いた応援歌はすんなり書けたのに、イシドリ君への手紙は何度も何度も書き直した。

なぜなら、イシドリ君を傷つけてしまう内容だから。

どうしたら、やんわりとやんわりと書けるだろうか。

私なりに必死だった。

相手がイシドリ君だからこそ悩んだんだ。

辛い辛い決断だった。

 

 

日曜日に◯◯駅南口でイシドリ君と待ち合わせした。

私は、何度も書き直した手紙を持ってきていた。

当時、私はいっぱいいっぱいだった。

イシドリ君がやってきて笑顔で言う。

「母さんが料理して待ってるよ。」

 

心臓が痛かった…

「イシドリ君…これ手紙を書いたんだ、家で読んで…ごめんね、家には行けない。」

 

私はそう言った直後に、

ダッシュで走り、

イシドリ君から逃げた。

 

「待って!」

イシドリ君が追いかけてくる。

 

イシドリ君の方が足が速い…追いつかれる。

私は必死に隠れたのを覚えている。

身を潜めた…頭がぐちゃぐちゃだった。

いっぱいいっぱいで。

ごめんね、ごめんね…ごめん。

謝ることしか思い浮かばなかったんだ。

 

 

私は、家路を急いだ。

歩いている間、気持ちを整理しようとしていた。

家に帰る前に、どうしても寄りたいところがあった。

 

たどり着いた場所は、ダイシのマンション前だった。

私は、ダイシのマンションをしばらく眺めていた。

ため息をつく。

 

イシドリ君への手紙には、付き合えない理由をバカ丁寧に書いた記憶がある。

鮮明に覚えている部分がある。

 

付き合えない理由、五箇条

その1、私は、独身宣言をしたから

その2、私は、生涯医療職で生きていくから

その3、私は、東京へ行くから

その4、付き合う時間とお金がないから

その5、他に好きな人がいるから

 

一番の理由は、他に好きな人がいるから…

好きな人とは、どうなりそうにもないから、独身宣言をしたと…

 

 

ダイシのマンションを見つめる。

中学を卒業してから3年近くになる。

イシドリ君、ごめんね…

私には忘れられそうにないんだ。

ダイシは私をすっかり忘れているだろう。

でも、まだ、私はダイシが好きなんだ。

どうにもならない恋心…

抱いて東京へ行くよ。

ダイシ、バイバイ。

 

 

数年後、私が28歳の時だ。

実家から電話がある。

実家へすぐに帰るように言われた。

私は、忘れていた。

大切な友人だった人を…

 

「じゅんか、高校の同級生のイシドリ君、覚えてる?」

 

懐かしい響き…イシドリ君…

 

「どうしたの?」

 

母が険しい顔をして私に説明した。

 

母の話を聞いて…

慌てて家を飛び出した。

走って、走って、走って…

イシドリ君宅へ。

 

葬儀だった。

 

28歳の若さでイシドリ君は空に行ってしまったのだ。

 

線香をあげた後、イシドリ君のお母さんが私に話しかけてきた。

 

「スゲノさん…ですよね…スゲノさん…」

イシドリ君のお母さんが泣いた。

私は、あの日、イシドリ君のお母さんの手料理を食べる予定だったのだ。

イシドリ君が自分の母親に私を会わせたがっていたんだ…

どんな想いで、イシドリ君はあの日をセッティングしたことだろうか!

私は、イシドリ君にもっと違う言葉をかける必要があったんじゃないか!

謝ってばかりいて、謝ってばかりで…

イシドリ君は、たくさんたくさん私を助けてくれたのに!!

 

イシドリ君は、心臓発作で旅立つ。

診断名に心臓発作はない。

あの若さなら不整脈だろう…

 

高校卒業後、実家によく電話があった。

私以外の家族には話さないのに、

私が出ると話すイシドリ君。

イシドリ君との会話は大事にしまっておきたい。

 

 

私は、実家からそのまま熱海に向かった。

1人で行く場所だ。

浄化して、イシドリ君に伝えたい。

熱海までは特急電車に乗る。

海に行く。

潮風とともに、海を見て、イシドリ君を思い出す。

風の流れに溶けこむように…

イシドリ君の後ろ姿が消えていく…

私に、尊い勇気をくれた人…

私を、誰よりも心配し、誰よりも想い、誰よりも応援してくれた人…

 

私の大切な友人…

 

私は海に向かって叫んだ。

 

「イシドリく〜ん!イシドリく〜ん!

ちゃんと伝えてなかったから…

ごめんね…じゃなくて…

ありがとう!ありがとう!ありがとう!

 

イシドリ君のおかげで、

ちゃんと看護師になれたよー

ちゃんと看護師に…」

 

 

教材をろくに持っていなかった私に、

予備校のテキストを貸してくれたよね…

予備校の授業内容を丁寧に説明してくれたよね…

 

1人で勉強してた私に付き添ってくれたね…

 

ありがとう、イシドリ君…

一生忘れないよ!

 

イシドリ君は私にとって良きライバルだった。

そう、永遠のライバルだよ…