いつも空は、曇りときどき晴れ

自分史、人生曇り空ばかりだけど、ときどき晴れがちょうどいい時もある

高校ライバルの走りは、私に勇気を与える

夏休みに入った。

夏休みでも、私は毎日学校に登校した。

午前中は、部活動をする。

部活動には私と古口さんしか来ない。

古口さんのアルバイトがある日は、

1人部活動になる。

広い美術室で静かに油絵を描いた。

また、秋のコンクールに出品するのだ。

描きたいものができたからだ。

人物画が好きな私は、また人物画を描く。

イメージはできていた。

風をきる背後の人間を描く。

 

午後からは、学校の図書館で勉強する。

職員室にいる教師は少ない。

先生をつかまえるのに苦労する。

午後の17時頃、部活動を終えたイシドリ君が図書館に来る。

そこから2人で一緒に勉強する。

 

イシドリ君のテキストのおかげで、私は救われた。

大げさかもしれないけど、

私にとって命綱と同等だったから…

狭い選択肢で生き残れるかどうか、真剣勝負していたからこそ、テキストが恵だと感じたのだ。

 

膨大な量のテキストプリントをひたすら解いた。

分からない個所は、イシドリ君にきいた。

イシドリ君は予備校の授業内容を私に説明してくれた。

 

夜22時頃、イシドリ君と一緒に帰る。

イシドリ君は駅の近くに住んでいたけど、夜道は危ないと言って、私を自宅まで送ってくれた。

 

夏休み部活動。

今日は、美術室で絵を描かない。

校庭前のロードワークする場所へ行く。

いろいろな部活の部員が真夏の中走っている。

探してた。

たくさんの人の中からイシドリ君を探してた。

いた!

いた、いた!

必死に慌ててデッサンをする。

イシドリ君の走るところを正確にとらえようと集中して描いた。

走り方が独特で、うしろ姿がスッとしていて、型が崩れない。

綺麗なフォームだから、無駄な動きがない。

よし!

デッサンはできた。

 

美術室の窓から外を見る。

イシドリ君の走る型を何度も何度も再確認する。

そうしているうちに…美術室からイシドリ君の走る姿を見るのが癖になってしまったのだ。

今日もがんばって走ってる。

よし!

私もやるぞ!

君からいつも私にやる気をくれるんだ。

 

秋のコンクールでは、完成した絵を出品するから。

待っててね!

 

 8月13日〜17日は、学校が休みだった。

おぼんの期間、私は朝から市立図書館に行く。

イシドリ君が朝、私の自宅まで来た。

「イシドリ君、どうしたの?」

イシドリ君は汗をたらしながら答える。

「僕も、図書館で勉強したいんだ、自宅だとはかどらなくて。」

 

一緒に市立図書館へ行く。

でも、市立図書館はもうすでに満員で混雑していた。

夏休み期間だからだろう。

「はぁ、どうしようかな…」

 

「スゲノさん、予備校の近くにある東京の国立図書館に行かない?」 

 

私とイシドリ君は、電車に乗って国立図書館へ行った。

不思議な感覚だったのを覚えている。

電車の中に私とイシドリ君がいる。

いつもと違う景色だなぁ。。

 

国立図書館は初めて行った。

国立図書館を見て衝撃を受けたのを覚えている。

建物が趣きがあり、重厚感があり、立派だった。

蔵書の数が、市立図書館に比べ10倍はあった。

インターネットの世界からかけ離れていた時代は、図書館の蔵書数にこだわり、あちこちの図書館をはしごしていた。

本を開いて、さらに別の本を開いて…

調べる作業を学ぶ。

 

国立図書館で快適に勉強した。

目の前には、イシドリ君も勉強をしていた。

10分起こしあい、ずっと続けて来た。

心強い。

「スゲノさん、そろそろ休憩しよう。」

えっ、まだ勉強をはじめて3時間だよ…

 

「まだ、勉強はじめたばかりだよ。」

イシドリ君は立ち上がり、私の腕をつかむ。

「いいから、いいから。」

 

国立図書館の周りにはたくさんの木々があり、風が吹くと、さわさわと葉の音が聞こえる。

イシドリ君はコンビニでおにぎりを買ってきた。

日影にあるベンチに座り、2人でおにぎりを食べた。

おにぎりが、すごくおいしく感じられた。

風が吹くたび、現実逃避したくなる気分だ。

はやく、高校を卒業して、はやく職を持ちたいなぁ〜

 

「スゲノさん、3〜4時間勉強したら、少しは休もうよ、仮眠もいいけど、こうして気分転換するのも疲れが取れると思うんだ。」

 

そっかぁ、イシドリ君、心配してくれたんだぁ。

そっかぁ、そっかぁ…

胸がじんとくるなぁ。

じ〜んと…あたたかくなる。

イシドリ君、よく私を見てるなぁ…

熱中しやすいところ、知っていたんだね…

 

特に夏休みは、なんだかイシドリ君と一緒にいる時間が長かった。

朝から夜遅くまで。

お互いライバルで、お互い励まし合いながら勉強する。

辛いときや困ったとき、お互いに助け合う。

ライバルだけど、それ以外の強いつながりを感じるようになった。

イシドリ君がいなければ…

この高校で…

助産師を諦めてた…

高校卒業して就職していただろう。

 

 

夏休み明け。

通常通りの生活がまた始まった。

中間テストがあった。

イシドリ君のテキストプリントのおかげで、だいぶ進歩した。

予備校はすごいところだと感心したのを覚えている。

テスト返却だ。

イシドリ君はどうだろう…

負けないよ。

 

数学

スゲノ、100点

イシドリ、100点

 

英語

スゲノ、100点

イシドリ、98点

 

現国

スゲノ、100点

イシドリ、100点

 

歴史

スゲノ、100点

イシドリ、100点

 

生物

スゲノ、100点

イシドリ、96点

………

 

イシドリ君の貸してくれた予備校のテキストのおかげで成績が伸びた。

私のテストは全教科100点だった。

体育の実技は不得意だった。

イシドリ君も何教科惜しかったけど、あとは100点だった。

 

浦高校の進学校のテスト難易度に比較したら、

この高校のテストは難易度は低かった。

だから、満点とれたからと言って、安心してはいけないと思っていた。

 テストの難易度は学校によって違うと、当時認識していた…対策が必要だと思った。

 

 

 

最近、図書館にイシドリ君が来ない…

どうしたのだろう…

勉強する場所を変えたのかな。

いつも、側にいたイシドリ君がいない。

おかしいな。

勉強に集中できない。

私は外が暗くなったのを見て、なんだろう、自分でもよく分からなかった。

卓球部の部室に向かっていた自分がいた。

卓球部の部室には、数人の部員が着替えていた。

そこにイシドリ君はいない。

「卓球部の部員は全員ですか?」

私が聞く。

「皆んな、とっくに帰ったなぁ、俺らも帰ります…あっ、そういえば1人走ってるな。」 

 

私は、走って外へ出た。

暗い場所で1人ロードワークをしているイシドリ君を発見する。

真剣な顔をして、ひたすら走ってる。

こんな遅くまで…

私は…そっとしておいた方がいいと思った。

図書館に戻る。

私も気を取り直して勉強を始めた。

 

帰宅後、決めていたことがあった。

「お母さん、明日の早朝、マラソンをまた始めるよ、中学生以来だけど。」

母親に伝えた。

 

「まぁ、私もじゅんかと一緒に走るわ、ダイエットしたいから。」

「えっ!一緒に?  無理じゃない、母さん…とろそうだしなぁ…」

 

結局、早朝にマラソンをすることになった親子。

母さんの足は短足だし、ペースがかなり遅かった。

 

「お母さんが1周走ってる間に、私は2周走るから、ゆっくり走ってて。」

私はそう言って先へ進もうとした。

母は私の腕をつかむ。

「待って待って…一緒にゆっくり走ろう…じゅんかと一緒にこうやって過ごすのも数ヶ月でしょう?家を出ていくんでしょ…大事にしましょ」

 

母親の言葉が忘れられない…

ダイエットしたくて走っているんじゃないと…

私と一緒に生活するのも、あと少しだと…

おかあさん。。

おかあさん。。

「わかった、一緒にゆっくり走ろう、スロージョギングでいこう!」

私は、それ以来、高校卒業するまで母と一緒にスロージョギングを続けた。

怠け癖の母が、

早朝ジョギングを続けてきたことに驚いた。

お母さん…さびしくなるよ。

東京へ行けたら…さびしくなるよ。

お母さん。。

 

 

秋、荒川の土手でマラソン大会がある。

全校生徒が一斉に走るマラソン大会。

高校1年から3年まで全員で長距離を走る。

男子と女子も一緒に走る。

女子は10kmで男子は20km。

一斉にスタートしても、女子が先にゴールする。

生徒数の多さに圧倒された。

誰がどこにいるのか、まったく分からなかった。

 

スタートを切った。

最初から思い切ってダッシュする女子グループがいる。

バドミントン部だ。

バドミントン部全員がまとまって先頭をしめた。

それから、陸上部…バスケ部…

速い…速い…運動部にはやはり負ける。

中学生の時とは違い、高校生にもなると、体格ががっしりしてくる。

私が毎朝、母とスロージョギングしてもかなわないわけだ。

全校生徒の女子では、私は真ん中らへんを走っていた。 

荒川の土手をまっすぐ走る。

 

「男子の先頭グループが折り返し地点を過ぎたよ!」

 

えっ!

ウソでしょ…もう…速いなぁ〜男子

男子が折り返し地点でUターンすると走ってきた。

荒川の土手を戻るように走る。

女子が走ってる脇を男子が走ることになる。

「どこの部活が先頭を走ってるんだろ。」

女子らが騒ぐ。

「サッカー部じゃない、ラグビー部か。」

 

私は、男子の先頭集団には関心がなかった。

もう、息がきれていて、限界だったのだ。

ハイペースで走ったから、バテたんだ。

スロージョギングでは運動部にはかなわない。

下をうつむき、乱れた呼吸を必死に整えてた。

苦しい…苦しい…

はやくゴールにいきたい…

 

「男子先頭きたぞ!」

女子らが注目する。

騒ぎはじめる。

「きゃぁ〜きたぁ〜、あれ、あれは…卓球部のイシドリじゃね?」

誰かが言った。

私は思わず顔をあげた。

まさか、まさか、イシドリ君が?

 

私の前からイシドリ君が綺麗なフォームで走ってくる。

私は、口をぽかんとあけて見てた。

全校生徒男子のトップを走っている。

トップと2位の差はかなり離れていた。

だんとつ、トップだ。

卓球部のイシドリ君が。

イシドリ君の走る姿をまじまじと見つめた。

イシドリ君の走る姿は…美しい…強い…

 

イシドリ君は私の脇を通る前に、軽く右手をあげた。

いい笑みだ。

余裕だ。

私は、苦しい顔をして軽く右手を上げて返した。

苦しさが一気に半減した。

下を向かず前を向いて走れるようになった。

イシドリ君、すごいよ、すごいよ…

凄すぎるよ…

私は、ずっとイシドリ君を見ていたし知ってるよ。

イシドリ君が、誰よりもがんばって走っていたことを。

胸が熱くなる。

ライバルなのに自分のことのように、すごく嬉しいんだよ。

嬉しいし…嬉しいし…

イシドリ君の走る姿を目に焼き付けようとして、脇を通り過ぎたイシドリ君を目で追った。

イシドリ君の背中が見える。

背中…まさに、これだ。

風をきりながら走り抜ける、ひたむきな後ろ姿…

これだ…

 

サッカー部やラグビー部、陸上部などの強豪部全員をうち負かすんだもん!

卓球部でも勝てるんだ!

強豪相手に、たった1人で立ち向かうイシドリ君が美しく見えたんだ!

強く見えたんだ!

ひたむきな努力…

走っているうちに涙がにじみ出た。

涙をぬぐってもぬぐっても、にじみ出てくる。

嬉しい、嬉しい…

感動している…

 

私も、やれるかな…

偏差値45の公立高校出身の私が、たくさんの強豪進学校を相手にして、1人で立ち向かうんだ。

塾や予備校もない。

でも、私には高校教師陣がいて、さらに強い強い味方がいるんだ!

イシドリ君だ。

 

マラソン大会で強豪部を相手に立ち向かったイシドリ君の姿は、一生忘れられない。

君から大きな大きな勇気をもらったよ。

強者に1人で立ち向かう勇気だ。

自信がなかった。

無理だと半分以上思ってた。

怖かったし、脅威だし、諦めている部分があったんだ。

でも、君に尊い勇気を教わった。

尊い勇気を…私にくれたね、イシドリ君。

涙をぬぐって、歯をくいしばって、私は前へ進むよ。

もう、ひるまないよ、立ち向かう!

 

 

イシドリ君はマラソン大会で優勝した。

全校生徒が驚いていたのを覚えている。

彼は、真の努力家だ。

 

 

美術室で1人絵を描いていた。

夢中だった。

あの美しい姿と尊い勇気を描くんだ。

尊い勇気…

 

「スゲノさんの今回の絵は、今までとは違いますね…躍動感があふれ、人物の動きが風の吹く流れに溶け込んでいますね…これは…走ってる後ろ姿かな? 生きるエネルギーを感じますね…1人…たった1人でどこかに向かっていますね、この人は友人ですか?」

 

美術顧問の原先生が言った。

「友人…う〜ん、私の味方で……いつも私に勇気をくれる人です。」

 

秋のコンクールに出品した。

「1人、風に立ち向かう勇気」

 

私は、受験勉強への意欲が増したのを覚えている。

必ず、合格する。

 

朝礼で、まず、イシドリ君の名前が呼ばれた。

マラソン大会優勝の表彰。

そして、卓球部での活躍、ベスト4

 

私の名前が呼ばれた。

秋の県大会コンクール、最優秀賞受賞。

 

 

君はいつも私を上へ引っ張ってくれたね…

私に勇気をくれるんだ。

 

いつも、傍らにいた。

気づかなかった。

近くにいすぎて、気づけなかった。

君に、ちゃんと伝えてなかった言葉があった。

後悔していることなんだよ。

 

今日の空は、夏空の青い空に真っ白い雲。

夏空は…国立図書館へ行った日々を思い出す。