いつも空は、曇りときどき晴れ

自分史、人生曇り空ばかりだけど、ときどき晴れがちょうどいい時もある

M 大切な人を守るために

ダイシと最後に会ったのは、卒業式の後。

男子トイレで泣くダイシと男子トイレ前で泣く私。

あれが最後だった。

 

卒業式パーティーに現われなかったダイシ。

雨の中、ダイシのマンション前で待ち続けたけど、会えなかった。

「合わす顔がない」

 

私は、会いたかったのに、そのことを伝える勇気がなかった。

 

 

あれから、脱け殻のようになった私は、春休みを呆然と過ごしていた。

もう、二度と会えないんだ…

そう思うと、涙がまた溢れ出す。

涙がとまらなくて、とまらなくて、胸がしめつけられて、すごく、すごく、苦しいんだ。

 

泣いてばかりいる私を見た母は言う。

「友達らと別れて悲しいのね、高校に行けばまた新しい友達できるわよ。」

 

母さん、母さん、恋って、こんなに辛いものだとは思わなかったよ…大切な人と別れる切なさが…こんなにも、こんなにも、痛いとは…

どうしたら、のりこえられるの?

母さん、教えてよ、教えてよ…

誰にも言えないし、相談もできない。

 

 

15歳の頃、大ヒットした曲があった。

ラジオから流れたその曲をテープで録画する。

プリンセスプリンセス

「M」

歌詞を聞いて、まさに自分のためにかかれた歌だと思うくらい、今の私の心情にぴったりだった。

この曲を流すと必ず涙があふれ出すのだ。

 

いつも一緒にいたかった、となりで笑っていたかった…

 

泣いてしまうと分かっていながら、「M」を毎日のように聞いてしまう。

泣くことで、胃にぽっかり空いた穴を埋めていた。

感情を外に出すことで、楽になるのだ。

 

泣いている私を見た兄は言う。

「じゅんか、また、泣いてるのかぁ〜何青春してるんだよ〜笑」

茶化される…

兄ちゃんを相手にしなかった。

 

泣いている私を見た父は言う。

「じゅんか、まだメソメソしているのか?なんなら一緒に散歩でもしないか?桜が開花したぞ。」

 

いつまでも、いつまでも、泣いてばかりいたら、いけんな。

父の言うとおり、外の空気を吸おう…

でんう川の開花した桜を見ながら考えてた。

でんう川沿には、ダイシのマンションがある。

でんう川沿は、特別な思い出がある。

通学路のでんう川で、いつも一緒に下校していた記憶。

私は、恥ずかしくて、いつもダイシの後ろに下がって歩く。

並ぶことすらできなかった。

下校する時間が私には貴重な貴重な宝ものだった。

ダイシのマンションを見た。

マンションを見るたびに君を思い出す…

涙がまだ出るけど、

辛いけど、苦しいけど、前へ進まなきゃ。

 

私は、1人で高校に行きます。

君との会話を思い出す。

個展…君のために絵を描くと決めた。

何度も個展の話をするダイシを見て、私はだんだん本気になってきたのだ。

ダイシ、がんばってみるよ。

 

家に帰ってから私の目つきが変わった。

便せんを取り出す。

ダイシに手紙を書いた。

手紙の内容は、応援歌である。

お互いがんばって前を向いて歩いていこう…

まだ、ラブレターという大それたものは書けない。

手紙すら…奥手だった。

1人で東京の浅草まで行った。

浅草で私とダイシの未来のための願いを神様に伝えた。

お守りを2つ買う。

1つは、私が大事にもつ。

もう1つは、便せんと一緒に同封した。

ダイシのお守りだ。

お守りの入った手紙にダイシのフルネームを記入。

差出人は空欄。

自分の名前を書くことができなかった。

恥ずかしくて、書けなかった。

 

ダイシのマンションへ行き、マンションのダイシのポストに手紙を投函した。

手紙を投函するとき、

私は何度も何度も手紙を入れたり出したりして、迷っていた。

決意してやっと投函したのを覚えてる。

 

ダイシ、高校は別々だけど、私は今の気持ちを大事にしていくよ。

忘れないよ。

今まで、本当にありがとう。

たくさんの笑顔をありがとう。

 

私は、ダイシのマンションから走って帰った。

ダイシのマンション前には国道4号があって、4号をまっすぐまっすぐ行けば、私の家がある。

国道4号が私とダイシをつなげているような感覚だ。

国道4号を行ったり来たりすれば、

いつか、ダイシと会えるかもしれない…

そんな期待を持って私は走り続けた。

 

 

また、「M」を聴く。

もう出ないと思った涙が、また出てくる。

この曲は危険だなぁ…あはは、何度きいても泣けてしまう。

 

 

春、高校入学式。

桜が満開だった。

偏差値45の公立高校とは、どんな学校なんだろうか。

この学校に来たけど、ダイシはいない。

この高校に入った意味があるはず。

これも、神様の試練でしょ?

 

 

部活は美術部に入部。

私は、絵画を本格的に学ぶよ、ダイシ。

個展を開くには、

美術大学を出てないとね、ダイシ。

教育改革で選択制度のある高校。

私は、文系進学コースを選択する。

美術大学は文系と実技試験だからだ。

高校1年春、新たな目的を持ってスタートさせた。

 

 

卒業してから3ヶ月が過ぎた。

私は、全然心の傷みが癒えていなかった。

4号を行き来しても、ダイシのマンション前をうろうろしても、ダイシには会えなかった。

 

中学の頃、数回外でダイシとばったり会った場所がある。

そこは、スーパーの中の書店。

品数が少なく暗い雰囲気の書店なので、同級生の誰も行かない。

その書店でダイシとばったり会った。

「おおっ、すげさん、何の本を買いにきたの?」

 

高校1年の6月。

毎週の日曜日に、市立図書館に行く前に、必ずこの書店に寄る。

もしかしたら、また、ばったり会えるかもしれない…

期待していた。

毎週、毎週、日曜日に必ずこの書店に行く。

何時間も書店にいたこともある。

 

そんなところに、心臓をつきさす。

あっ、あっ、あれは…

ダイシの後ろ姿にそっくりな人が書店前を歩いていた。

あっ、あっ、待って…

私は、その後ろ姿を目指して走った。

そして、その人の腕を思わず掴んでしまった。

男性が振り返り私をまじまじと見る。

男性の顔を見た瞬間、落胆する。

違う…

男性に誤ったあと、しばらく呆然と突っ立ていた。

だんだん、また涙がじわじわ出てきた。

苦しいなぁ…

苦しいなぁ…

私は、書店前でしゃがみ込んでしまった。

顔を隠して、おいおい泣いた。

涙が涙がとまらなくて、とまらなくて。

ダイシに会いたくても、会えないという辛さ。

すれ違うだけでもいいのに。

数秒、一目見られれば十分なのに…

会いたい…

会いたいと切に願う…生まれて初めての感情。

 

私は、しばらく書店で泣いた。

書店から離れることができなかった。

 

 

ダイシ、私はメソメソしてないで、前を向いて自分の進路を真剣に考えていくよ。

中学の私には大切なものが一番だった。

それはずっと変わらない。

でも、私は幼すぎるし、大切なものを守る力がない。

だから、まずは、大切なものを守る力をつけていくよ。

時間はかかるけど、それまで待っていてくれると嬉しい。

がんばるからね。

高校3年間、私はずっとダイシに片想いをすることになる。

高校3年間の儀式を加えた。

高校登校途中にダイシのマンション前を自転車で通る。

毎朝、ダイシのマンション前でとまり、マンションに向けて敬礼をする。

「今日も、がんばります!」

そう言って、またペダルをこぎだすのだ。

 

見ている先は、いつも大切なもの。

やめてしまった勉強を再開した。

大切な人を守る力、つけるために…