いつも空は、曇りときどき晴れ

自分史、人生曇り空ばかりだけど、ときどき晴れがちょうどいい時もある

中学、恋は盲目、僕と同じ高校に行こう

中学3年の秋。

公立中学全国テストで、私は全科目を基礎問題以外、全て空欄で出した。

これで、私の平均偏差値が60後半から40ぐらいに成績が一気に落ちた。

私としては、中学1年の平均偏差値に戻ったような感覚だった。

 

これで、ダイシと同じ土俵に立てる…

あとは…ダイシと同じ高校に行くだけ。

 

「3年4組のスゲノジュンカさん、至急校長室に来なさい、3年4組のスゲノジュンカさん、至急校長室に来なさい。」

 

アナウンスが流れた。

 

校長に呼ばれたのか?

担任の先生じゃなくて…

 

私の意志はかたく、かたく、ブレたりしないという自信があった。

 

校長室のドアを静かに開けた。

校長室には、窓側に立っている校長がいた。

それよりも驚いたのは、ソファに浦井先生が座っていたのだ。

 

浦井先生……なんで、ここに?

 

私は浦井先生と面と向かってソファに座った。

浦井先生の目…涙目だった。

浦井先生の涙目を見て、私は胸が痛んだ。

 

校長が私に説教する話をしてくる。

校長の話は、まったく覚えていない。

うるさくて、うるさくて…

言葉を口にしたくなかった。

校長の前で、素直な気持ちを話す気には到底なれなかった。

 

「スゲノさん、私の話を聞けないのですか?」

校長がイライラした口調になっていた。

 

さらに、私は口を閉ざす。

 

浦井先生は、校長に部屋から出ていくようはからった。

校長が部屋を出ていき、私と浦井先生だけになった。

 

浦井先生が話す。

「じゅんか、どうしたの? じゅんかの家は自営業で、よく仕事を手伝うと聞いていたから、家庭に何か問題でもできたの?」

 

浦井先生が真剣な眼差しで私を見つめてくる。

涙目になって、鼻をすすりながら、私と真っ向から向き合う浦井先生の姿勢は、中学1年の頃から変わらなかった。

 

「先生…家庭は問題ありません、私の問題です。」

 

「じゅんか、何があったの?  努力して努力して、がんばってきたじゃないの…どんどんじゅんかの顔つきが凛々しく変わってきたと、ずっと見ていたんだよ。」

 

浦井先生が話している途中で、先生の目から涙が次から次へと流れ落ちたのを覚えている。

 

私のために、心配し、涙を流してくれる教師はいないだろう。

胸が締め付けられた。

私の目尻に涙の玉がたまってきた。

 

浦井先生、あなたには感謝してもしきれないんです。

怠け者で好きなことをするしか能がなかった私に、導いてくださいましたね。

勉強ができなくて嫌いで怠けてた私の意識を変えてくれた先生。

先生の身をもって希望を与えてくださった。

 

全校生徒の中で、マラソン大会優勝すると宣言した先生が、相当な努力をして優勝しましたね。

あの時の先生を見て、

私は心が動かされたんです。

私の意識が少しずつ変わっていった。

 

おかげで、成績をのばすことができた。

おかげでマラソン大会で7位と9位をとった。

 

あなたは、私の人生の恩人であり恩師なんです。

一生、浦井先生は私の中で、刻まれるんです。

 

私は、こらえていた感情を浦井先生にぶつけた。

私の目尻からたくさんの涙がポロポロ出ていた。

 

「先生、わたし、自分でもがんばったと思っていて……浦一高を目指せって言われたけど、先生、先生、わたしは、かなり限界まで勉強しているんです…寺坂くんらとは違うんです…彼らは短い時間で結果を出す…わたしは、彼らの10倍、20倍努力しなければ、足元に行けないんです、偏差値60台だしただけで、いっぱいいっぱいなんです、自分の限界を知ったんです。」

 

こんな話を浦井先生に言ったのを覚えている。

 

しばらく、沈黙が続く。

 

浦井先生、何度も何度もうなずいていた。

 

「でも、だからといって、今回の成績はかなり下がったよね…おかしいよね…なんでだろう…」

 

また、沈黙が続く。

 

目尻からまた涙がポロポロあふれてきた。

こらえていた私の熱い熱い想いを浦井先生にぶつけた。

 

「浦井先生、勉強は大事だと、ちゃんとちゃんと分かっています、でも、でも、先生、今の私には、勉強はどうでもよくなりました、何のために勉強するのか、分からなくなりました…」

 

「じゅんかの進路、やりたいことのために、勉強する必要があるわよね?」

 

私は、この時、顔が涙で染まっていると気づく。

 

「先生、先生、今の私は、やりたいことよりも、勉強よりも、もっともっと…大切なものができたんです…大切なものは、絶対なんです。」

 

涙ながらにして、鋭い目つきで、浦井先生を見た。

私の意志はかたいと訴えているかのように。

 

私の熱い熱い想いを浦井先生にまっすぐぶつけた。

 

浦井先生はさらに質問する。

「じゅんか、じゅんか、後悔しないね?」

 

「はい!もちろんです。」

 

浦井先生はまた質問する。

「じゅんか、じゅんか、覚悟はしているね?」

 

「はい!もちろんです、覚悟はとっくにしています。」

 

浦井先生は、涙だらけになって微笑んだ。

「分かった、じゅんかの想いが伝わったよ、じゅんかの思う通りに、進みなさい、校長には先生から説得しておくから、ね、じゅんか、いつの間に、こんなに成長して…先生は嬉しいよ、嬉しいよ。」

 

浦井先生はまた、泣き出したんだ。

泣き上戸な先生。

熱血先生。

私は、浦井先生が大好きだ。

 

 

校長室をあとにした自分。

教室に戻るまでの感覚を覚えている。

もう、迷わない。

私は、一直線な人間だ。

周囲が、私をバカな行動をするとよく言う。

でも、私にとって、一つ一つが真剣なんだ。

真剣にぶつかり合う、真剣に立ち向かう、

自分の気持ちには、いつだって真剣なんだ。

熱血先生と熱血生徒。

この出会いが私を変えた。

 

 

私のテスト回答用紙空欄提出が続いた。

勉強は、さほど力を入れなくなった。

代わりに牧野さんに勉強を教えるようになった。

寺坂メンバーは、私の心境の変化に驚いていた。

 

ダイシは、同じクラスのタケダから勉強を教わるようになった。

タケダは野球部のエース、越北高を狙っているので優秀だ。

ありがとう、タケダくん。

 

 

秋、進路面談。

この日に、最終的な受験校を決めなければならない。

 

いまだに、ダイシの受験校がわからない。

私は、進路調査表を記入することができなかった。

まっさらだ。

空欄だ。

 

私は、テスト回答用紙も進路調査用紙も、全部空欄なんだ。

 

どうしよう、どうしよう…

悩み考え、放課後の教室に1人とどまった。

今日中に、進路調査表を担任の先生に提出しなければならないからだ。

 

勉強をやめて…牧野さんに教えて…テストは空欄…

私は、ダイシと同じ高校に行きたいだけなのに。

どこの高校を受験するのか、聞けない情けない自分。

 

へたれ女!

 

私は、なんて不器用な女なんだろう!

 

「すげさん、すげさん、起きてる?」

 

机につっぷしていた私が、見上げる。

目の前には、ダイシがいた。

 

びっくりした。

 

ダイシを真剣に見る。

ダイシは微笑んだ、太陽の光がさす満面の笑顔で。

私は、いつも、ひまわりだった。

太陽の君の方へ向いてしまう。

君は、変わらないね。

君は、優しくて、笑顔がすごく似合っていて…私を上げてくれる存在。

君が私の原動力で、なんだって、がんばれちゃうんだよ。

だから、この先も、一緒に近くにいたいと、切に願うのだ。

 

「すげさん、進路調査表書いた?」

 

私は、首をふる。

 

「僕と同じ高校に行こう…すげさんが良ければ…」

 

私は、冗談かと思った。

でも、私は、ダイシの言葉を信じたかった。

 

「はい!」

 

潔く返事をする。

嬉しかった、嬉しかった。

あの喜びを忘れた日は、ない。

 

ダイシの受験先。

第一志望は公立北  偏差値45ぐらい

第二志望は私立昌平 偏差値40ぐらい

 

私とダイシは同じ志望校になった。

 

担任の先生や寺坂メンバー、まゆみちゃんは、呆れていた。

何で、偏差値40の高校を受験するのか。

私は誰にも言えなかった。

恋の盲目だと…誰にも言えなかった。

間違っているかもしれない。

でも、今の自分の気持ちを優先したかったから。

損をしても、

傷つけられても、

恥をかこうが、

関係ない。

 

私の恋は、一直線で情熱なんだ。

君と同じ土俵に立って、同じ目線からものごとを見たいと思っていた。

私の初恋は、軽くはない。

真剣なんだ。