いつも空は、曇りときどき晴れ

自分史、人生曇り空ばかりだけど、ときどき晴れがちょうどいい時もある

中学、恋は盲目、君と話したい

中学3年、ダイシと同じクラスになり、さらに隣同士の席になった。

私は、過緊張で言葉がスムーズに出なくなってしまった。

小学1年の寡黙と似ているのかもしれない。

ダイシ以外の人なら、スムーズに話せるのに、ダイシとはスムーズに話せないのだ。

おかしい、おかしい…

しかも、まともにダイシの顔を見ることができない。

近すぎて近すぎて、見上げることができない。

緊張しすぎて、授業に集中できない。

机の下を見て、ひたすらうつむく。

ダイシが私の方を見るたびに、窓の方へそっぽを向く。

それを繰り返す。

同じ教室にいられますように…

そう願っただけなのに、まさか隣の席とは…

どんくさい私には、あまりにも高い高いハードルのように思えた。

神様が私に試練を与えたのかもしれない…

そんなバカなことを思っていた。

 

私が一番好きな時間は、美術や歴史でもなく、給食の時間だった。

食いしん坊なんだ。

給食は美味しいし、家よりたくさん食べれるからだ。

 

でも、中学3年、一番嫌いな時間が給食の時間になった。

 

男子3人女子3人が隣同士で向き合い、机の班をつくって一緒に食べるからだ。

目の前にダイシがいて、目の前で食さねばならぬ。

お腹がぐぅぐぅなる。

私の好物、カレーの日

ゴクリとする。

食べたい…

食べれない。

なんで、ダイシはこっちを見て食べるかな…

隣のノブハルと会話しながら食べればいいのに。

 

カレーには、サラダと冷凍みかん、牛乳がある。

どれも好物だ。

 

ダイシが後ろを向く。

後ろの班にいるイワナガに話しかけていた。

 

チャンス、今だ!

それぇ〜いけぇ〜

一気に食べるんだ〜

私はスプーンを手にして、カレーをすくって口につっこんだ。

スプーンの回転速度は過去最高だ。

よく噛まないで、胃にほうりなげる勢いだ。

 

ダイシが前を向く。

スプーンの回転が急停止する。

自分の口のまわりをハンカチで拭く。

成功…

 

いつもいつも、給食の時間は緊張感の中で食べなければならなくなった。

落ちついて、ゆっくり食べられない。

 

ある日、給食の時間に、いつものような食べ方をしていた。

 

春雨スープは私の好物だ。

ダイシが後ろを向いているときに、春雨スープを急いで食べる。

口に囲むようにして…

ダイシの後ろ姿を見ながら食べる。

いつ振り向いてもいいように。

だいたい、2〜3分イワナガと話す。

それをめどに食べてた。

でも、読みが甘かった。

ダイシはいきなり前を向いたのだ。

しかも、ダイシが私の顔をみた。

春雨スープを囲っている姿。

 

びっくりしすぎた。

 

驚いて驚いて、春雨を喉にひっかけたらしい。

むせる。

ゴホ、ゴホ、ゴホ…

 

班の人らが心配して声をかけてくる。

あぁぁ、恥ずかしい!

 

恐る恐るダイシを見る。

 

ん?

 

ダイシがにっこりしてる。

すげさん、大丈夫かぁって。

慌てて食べない方がいいよって。

 

班の人らもダイシも笑う。

私も、つられて笑い出した。

あっ、あれ、自然に笑えた。

ダイシの前で、自然に笑えた。

進歩だ。

緊張感の塊が、少し削られたみたいだった。

 

ダイシは、冷凍みかんなどのデザートが欲しいと言うようになった。

ダイシを気にしながら食べているから、デザートを食べ損ねていた自分。

ダイシは、私がデザートが嫌いなんだと思ったようで、毎日私のデザートを持っていくようになった。

 

そのやりとりが、中学卒業まで続く。

席替えしても、班が違くなっても、デザートをあげることは、続いていた。

内心、嬉しかったのを覚えている。

 

 

ダイシと顔を向けて話せたら…

緊張感のあまり声が出なくなる自分が嫌で仕方がなかった。

せっかく隣の席なのに、

話さないのはもったいない。

ダイシと話したい…

でも、どうやって?

 

きっかけは、すぐにあった。

それは、絵だった。

美術の授業。

 

美術部だった私は、真剣に絵を取り組んでいて、自分の理想とする絵画色調を目指していた。

上野でマルク・シャガール展が開催され、皇太子の妻、雅子さまも訪れたという展示会。

マルク・シャガールの「私と村」を見て、衝撃を受けたのだ。

涙が出て…その絵の前に、ずっと立っていた。

世の中に、こんなにも、こんなにも、あたたかい絵があったなんて…

13歳の私が感じたこと。

何時間も、絵を見ていた。

マルク・シャガールの虜になる。

なんて、なんて、愛のある、あたたかい絵を描くのだろうと…

 

私は、マルク・シャガールに憧れて自分の油絵を描いた。

 

でも、実際はマルク・シャガールとは正反対の絵画を描いていたようだ。

 

暗くて、シック、鋭くて、激しい感じ。

愛とあたたかさのあるシャガールの絵とは程遠いのだ。

なんでだろう!

なんで、こんな絵に仕上がってしまうのだろう。

 

実際、美術部員からブーイングの反応だった。

部活の顧問講師に言われた。

「スゲノさんの絵は、闇ですね、黒色はつかわないで下さい、、黒色は必要ないです。」

 

大好きな黒色系をつかうことを禁じられてしまった。

私の好きな色なのに…

 

 

絵を描かない人や一般的な鑑賞において、好まれる色調がある。

明るい色調でほっとな、あたたかい絵を好む。

一般受けをしない私の絵。

 

 

そんな私の絵をあのダイシが褒めてくれた。

同級生で私の絵をいいと言ってくれたのが、ダイシが初めてだった。

しかもダイシは真っ直ぐなんだ。

気遣いや余計な考えがなく、ストレートに素直に伝えてくれる。

秀才な友人はたくさんいる。

彼らから発する言葉は、うさんくさく感じる。

難しい言葉や解説を並び立てられても、嬉しくはなかった。

でも、ダイシは真っ直ぐなんだ。

うぁ!すげぇ〜初めて見るよ、びっくりだよ!

簡単明瞭な言葉を口にする。

誰もが分かる言葉だ。

ダイシの目の輝きや真っ直ぐさが…美しいと思った。

 

ダイシだけが私の作品を認めてくれる。

ダイシに褒めらて、この上ない感動を味わう。

 

絵は、ダイシのために描くよ…

 

お偉いさんの評価は…必要ないや。

 

美術の時間、私とダイシは隣り合わせだ。

お互いの作品を見せ合う。

お互いに笑い合う。

私は、ダイシの美術センスのなさを知り、大笑いをする。

ダイシは、いつもいつも、私の作品を褒めるのだ。

失敗作でも、ダイシは絶賛するのだ。

真っ直ぐ、真っ直ぐ。

そんな単純なダイシがどんどん好きになった。

 

「すげさんの絵はすごいよ、感動する…画家になるんじゃないかな、すげさんの個展、楽しみだな。」

 

 

彼の言葉から、

私は恥ずかしいという縄を切った気がした。

 

「ダイシ、ありがとう、ありがとう、私、絵を描き続けるよ、大人になったら個展を開く、そしたら、見に来て、そしたら…嬉しい。」

 

 

隣同士の席になって、ダイシと初めて会話した内容だった。

 

やっと、君と話せた。

やっと、君の顔をまともに見ることができた。

 

私の作品は、ずっとずっと、ダイシのためにある。

ダイシのために絵を描いていた。

高校でも美術部に入って、

ダイシのために絵を描き続けてきた。

それだけなんだ。

絵は、そのためだけだったんだ。 

 

君と話したいためだけに、

私はたくさんの作品をつくり、

君に見せるんだ。

君は、太陽の光がさす表情で笑う。

満面の笑顔で私を安心させてくれる。

君と、ずっとずっと話したかった。

ずっとずっと。

やっと、話せるようになったね。

君との会話は…一生忘れないよ。