いつも空は、曇りときどき晴れ

自分史、人生曇り空ばかりだけど、ときどき晴れがちょうどいい時もある

一緒にバカになれる友達

私には、心からリラックスして自然体で関われる友人がいる。

お互い本音がスムーズに言えて、私らしくいられる存在。

私の性格や小学生の経験から、自分らしくいられる相手は激減してしまった。

それでも、唯一自分らしくいられる友人がいた。

それは、村上さんだ。

村上さんとは小学生から同じ学校だったけれど、関わるようになったのは、中学1年の文化祭だ。

中学の1年5組、担任は浦井先生。

文化祭で『青空に続く道』の映画製作をする。

現代から過去の戦争を考え悩む中学生らを描く。

第二次世界大戦を取り上げた。

 

私は俳優になるのが一番嫌だった。

監督、カメラや脚本などの役割は、堂々と前へ出ていかないといけない。

 

却下。

 

私には、裏方のどうでもいい雑用がお似合いだし、気楽だ。

大道具・小道具・衣装担当に立候補した。

メンバーが集まる。

ん?

なんか、メンバー全員似たような雰囲気だなぁ。

皆んな、暗いし、ぱっとしない、静かだし、陰険かな…笑

私も、同じ類いかな 笑

私も含めて黙々と作業をするメンバー。

うん、うん、楽だな。

 

そのメンバーの中に、村上さんがいた。

あっ、この人、同じ小学校だったよね…

ものすごく、おとなしい子だなぁ。

無口だし。

人のこと言えないけど…

 

驚いたことに、なんと、同じ部活にいる人だった。

部活に入って何ヶ月も経っていたのに、気づかなかった。

それくらい、影にいるような子だった。

人のこと言えないけど…

 

部活動でも、村上さんは何もしゃべらない。

無口だ。

髪型も前髪がいつも伸びていて、お顔がよく見えない。

下を向いて歩く。

 

 

会話を交わしたことがない村上さんは、私に似たにおいを感じたのだ。

私と同じにおいがする…

 

 

珠算教室の近くに住む村上さん。

私は、珠算教室の近くにあるミニ商店に買い物にきた。

恒例の少年ジャンプを買いに来た。

兄との交換条件。

私が買いに行けば、私も読ませてくれるという。

ジャンプを買い来た私と、手作りパンを買いに来た村上さん。

ばったり会う。

 

あっ…

 

お互いそんな感じで目が合う。

村上さんだ…

 

村上さんはパンを買ったあと、家路をいく。

私もジャンプを買って、少し距離を置いて村上さんの後ろを歩く。

 

途中で、前で歩いていた村上さんが草むらに入っていくのを見た。

 

あれ?

何で夜に草むらに?

気になったし、わくわくしたし、惹きつけられるかのように私も草むらに入っていく。

草むらの中で、誰かがしゃべっている。

ん…なんだろう。

草むらの奥に入っていった。

そこでは、村上さんが猫と会話をしていた。

買った手作りパンを猫にあげている村上さん。

 

私には、ブチという猫がいる。

私は無類の猫好きだった。

私は村上さんに近づき話しかけた。

「パンは、猫食べないんじゃないの?」

 

村上さんは私を見てかなり驚いてた。

「食べるよ。」

 

本当に?

 

村上さんは猫博士だった。

猫の生態を詳しく知っていた。

私も猫の生態を調べたと村上さんに言った。

「私は、猫の道を探したよ!」

私が自信満々に言った。

 

村上さんも言った。

「私も猫の道、たくさん知ってる。」

 

その会話で、お互い通ずるものを感じた。

なんだろうか…よく分からないけど、同じ世界観にいるんじゃないかって。

他の友人にはバカにされたのに、村上さんは違った。

 

「村上さん、知ってる猫の道を教えて…」

村上さんは私の言葉で目をキラキラさせる。

村上さんが先導して猫の道を歩いていく。

わくわくした。

ドキドキした。

猫だけのルートがある道を、人間である私らが知っているのだ。

秘密のルート。

胸が高鳴る。

 

私と村上さんは、これをきっかけに友達になった。

自然に引き寄せられる感じだ。

草むらの中を2人で探索していく。

猫がびっくりしないように、2人で忍び足で歩くのだ。

猫は音にかなり敏感で怖がりで臆病だということを、お互い分かっていた。

猫の道のルートをたくさん知った。

すごく、すごく、楽しかったのを覚えている。

村上さんは大きな口を開けて笑ってた。

ゲラゲラと笑う。

なんだ…明るい子だ。

いい笑顔だ。

 

村上さんが美術部だと後から知った私は、部活でも村上さんにたくさん関わるようになった。

陰険な人かなぁと思っていたけど、全然違った。

面白い子で明るい子だった。

でも、その自分の良さを出す相手は限られているようだった。

はたからみたら、暗いイメージ。

心許す相手には、明るく人を笑わせる子だった。

 

 

村上さんの家に遊びに行った。

家は平家で、家の中は、すごいことになってた。

物が散らかり放題だ。

洗濯物が床に散乱していた。

しかも、20匹近くの猫が部屋を埋め尽くしていたのだ。

「この猫、全部飼っているの?」

 

村上さんは笑う。

「家は開放にしてるから、野良猫が集まるんだ、エサをあげてるよ。」

 

お母さん、怒らないのかな…

 

さらに上の方を見ると、鳥かごが4つほどぶら下がっていた。

あれ…なんだろう。

覗くと、4羽のセキセインコだった。

 

「私の家にも、猫とセキセインコを飼ってるよ。」

村上さんは、セキセインコを取り出す。

手乗りに訓練されていた。

 

「野良猫の前で危ないよ。」

 

村上さんはニンマリして、「平気だよ。」っていう。

しばらく様子を見てみたら、村上さんの言うとおり、野良猫たちはセキセインコを襲ってこない。

 

なんで?

 

「野良猫だけど、20匹とも、しつけてある。」

 

驚いた!

村上さんって、動物に詳しくて、しつけの仕方も知っているんだ。

すごい…

 

後から村上さんのお母さんがきた。

「お友達がきてくださったんかね…ゆっくりしていきや、猫たくさんだけど、悪さはしないからね。」

 

村上さんのお母さん、なんか面白い雰囲気だった。

散らかり放題でも気にしない、喋り方から個性的なお母さんだと感じた。

 

父親も登場。

村上さんの顔にそっくりで親しみを感じた。

 

 「お友達が来たんかね、かあちゃん、かあちゃん、茶でも出してや…」

 温和な父ちゃんだった。

 

村上さんには3つ上のお姉さんがいる。

「お姉さんは?」

 

村上さんは言う。

「うちの姉ちゃん、オタクなんだ、喋れないし引きこもってる。」

 

そっかぁ。

お姉さんは話せない人だと知る。

 

「何が好きなの?」

ドラゴンボールだよ。」って村上さんが答える。

 

今度、ドラゴンボールの冊子を持ってくるよ。

 

 

村上さんの家族は少し変わっていたけど、私は好きになった。

なんか分からないけど、平家の猫屋敷が私にとっては落ち着ける場所となった。

 

 

村上さんと私はずっと一緒にいるようになった。

とにかく、一緒にいると楽しくて自分らしくいられるからだ。

土曜日の授業の後、同じ教室にいる村上さんに目配せする。

村上さんは私の合図に対して、大きくうなずく。

帰りの会が終わる10秒前、バックを手に持ち、中腰になる。

帰りの会が終わる鐘が鳴る。

よし、今だ、駆け抜けろ、我が聖地へ!!

私と村上さんは鐘の鳴る音とともに、教室を飛び出した。

走ってはいけない廊下を、思いっきり小走りで聖地へと向かう。

村上さんの目を何度も何度も見て、村上さんも私の目を何度も何度も見て、目で合図する。

 

競争だ!

 

聖地まで急ぐ。

誰もいなくなったら、小走りから走る。

走って、走って、村上さんと競争する。

わくわくしていたし、お互い笑いながら、スリルを味わっていた。

 

息が切れて、私が滑り込みで先に聖地に到着。

ホームベースを滑り込む感じだ。

村上さん、私の足をつかみ、それを阻止しようとしてた。

お互い顔を見合わせて笑った。

そのまま、聖地で寝転ぶのが恒例になった。

そう、まだ誰も来ていない美術室で、村上さんと思いっきり大の字になるのだ。

美術室の天井を眺める2人。

窓からさしこむ陽の光がカーテンをとおして、天井にうつしだす。

ゆらゆら、ゆらゆら、光と影が揺れるのを見るのが気持ちがいいし、誰もいない美術室で、とんでもない格好で悪さをしている自分が面白かった。

クラスでは、おとなしくて暗いスゲノさんで知られているけど、安心できる相手となら、無邪気になったり、バカなことをする。

それができる相手は、村上さんだった。

 

美術室で寝転ぶのが気持ちがよくて、時間をたつのを忘れてしまう。

 

後からまゆみちゃんが来た。

「じゅんかちゃん、こんな所で寝転ぶなんて、制服が汚れるよ!汚いからやめときなよ。」

 

笑笑

まゆみちゃんが、バカな私らをちゃんと正してくれる。

 

「はい、体操着に着替えます!笑」

 

バランスがとれているんだ。

バカなことをする私を、思い留まらせてくれるまゆみちゃん。

昔から助かっているんだよ。

ありがとうね。

 

 

中学1年の前期、全国テストの結果が出た。

確か、夏休み前だったかな…

美術室で全国テストの結果を見せ合う。

 

「まゆみちゃんって、勉強ができるんだね…すごいなぁ、すごいなぁ。」

 

偏差値60前半かぁ…

 

結果は人それぞれ。

中でも、結果が良くない美術部員がいる。

それは、私と村上さんだ。

 

お互い成績が悪い。

 

村上さんと私の偏差値はほぼ同じ。

国語が苦手な私。

数学が苦手な村上さん。

 

村上さん、数学がかなり悪かった。

でも、国語の成績がいいので、カバーしている感じだった。

 

はぁ…私は勉強に向いてないなぁ。

村上さんは、成績悪いことにまったく気にしない様子だ。

 

せめて、お互いに偏差値50はいきたいなぁ〜

バカコンビだな  笑

 

 

私は、時間があるとすぐに村上さんの家に来るようになった。

村上さん宅は狭いけど、好きな場所だ。

お姉さんの部屋にはドラゴンボールグッズで溢れていたけど、妹の村上さんは日本文学の小説をたくさん並べる部屋だった。

なるほど…国語の成績がいいのは、読書かぁ。

私は村上さんに日本文学の小説を借りた。

まずは、夏目漱石の『こころ』に挑戦。

村上さんの影響で、この頃から本を読むようになった。

少年漫画ばかり読んでいたけど、なんとなく、村上さんが読んでいるものが気になったのだ。

 

それから、村上さんの意外な一面を知る。

村上さん宅に小さな子供がたくさん集まってくるのだ。

「おい、カズコ、いるかぁ?遊ぼうぜ。」

 

幼稚園児や小学生が次々に集まってくるのだ。

 

村上さんは小さな子供に呼び捨てで呼ばれていて、10数人の小さな子供を相手にして向き合う村上さんを見た。

 

村上さんがまるで、皆んなのお姉さんみたいだ。

なんだろう、小さな子供と一緒に遊ぶのが自然なんだよね。

自然な感じ。

なんでだろうって思っていた。

あっ、わかった。

なるほど。

村上さんの目線が子供の目線と同じだからだ。

村上さんも小さな子供に返って遊べるのだ。

 

村上さんは、子供を扱うのが凄く得意だった。

村上さんの特技を知り、嬉しかったのを覚えている。

 

近所の子供は、皆んな村上さんが好きなんだな。

私と一緒だな。

私も村上さんが好きだなぁ。

 

ある学校でのこと。

村上さんが私をコソコソ呼ぶ。

なんだろう…

「じゅんかちゃん、あの草むらにね、生まれたての猫がいたんだよ、すごく小さくて可愛かった、夜見に行かない?」

私は、目を光らせてうなずいた。

もちろん、いく。

 

村上さんと一緒にあの草むらに行き、生まれたての猫を探した。

草むらには、猫組織がすでに出来上がっていた。

だいたい50〜60匹ぐらいの組織だろう。

草むらのボス猫が茶トラ。

茶トラの赤ちゃんが生まれた。

茶トラの赤ちゃんは、小さくて可愛かった。

茶色と白の子猫だった。

村上さんと私は、猫社会をのぞいていた。

人間同様、猫にも猫社会があった。

こんなこと、他の同級生には言えなかった。

村上さんと私の世界観だった。

 

 

「あれ、ブチの缶詰が減っているわ…じゅんか、知らない?」

 

ギクッ!

母さんの質問にかたまる。

 

「お母さん、実はさ、野良猫にエサをあげているんだよ、村上さん宅の草むらで…」

 

怒られる覚悟だった。

でも、母は何も言わなかった。

「あっ、そうなんだぁ。」

拍子抜けしたかな。

 

次の日の朝、母が私に言った。

「じゅんか、これ、朝の残りの魚の残骸…骨でも身がついてるわ、持っていきなさい。」

 

母の行動に私は胸を熱くした。

ありがとう、かあさん。

 

私は村上さんと一緒に、子猫が生まれた草むら組織の猫らにゴハンを与えるようになった。

 

朝のご飯に、魚が出てきたときは、わざと残していた。

余った魚を生まれたての赤ちゃんにあげるためだった。

村上さんも私と同じく朝のご飯をわざと残していた。

いつの間にか、あの草むらには、たくさんの猫で溢れかえっていた。

つまり、私と村上さんが餌付けしたのだ。

 

 

ある時、草むらで私と村上さんで子猫たちと戯れあっていたときだ。

下校時間、制服姿で草むらではしゃぎ回っていた。

制服は泥や砂だらけで…

気づかないまま、遊ぶのに夢中になっていた。

大笑いしていた。

楽しかった。

 

そこへ、まゆみちゃんが来た。

私達の様子を見て言う。

「じゅんかちゃん、野良猫を直に触らない方がいいよ、野良猫はばい菌がたくさんあるって、お母さんが言ってた、触らない方がいい、それに、野良猫にエサを与えるのはよくない、近所迷惑だよ!」

 

まゆみちゃんの真剣な言葉が、

私の胸に突き刺さる。

まゆみちゃんはいつも優しい。

昔から。

真面目で正しいことを言う。

バカな真似をする私を心配して、いつもいつも、叱ってくれるよね。

まるで、第2のお母さんみたいに…

ありがとう、ありがとう。

 

「じゅんかちゃん、うちらは、もう小学生じゃないよ、中学生なんだから、しっかりしよ。」

 

うん、分かっているよ。

うちらは、もう、中学生だ。

バカな遊びは卒業しなきゃいけないんだよね…

でも、まゆみちゃん、もう少し待っててくれるかな?

私はまだ、もう少し遊びたいんだ…

必ず、卒業するから…

ごめんね。

 

 

中学1年の秋。

村上さんが慌てて私に言い寄る。

「じゅんかちゃん、草むらの猫組織がみんな保健所に連れていかれたって!」

 

私は、慌てて村上さんと一緒に草むらに行く。

猫が一匹すら見当たらない。

しかも、あの子猫、茶トラの赤ちゃんも見当たらない。

村上さんと一緒に愕然とした。

 

私は、諦めたくはなかった。

両親に保健所の場所を聞いた。

でも、両親は賛成できないという。

両親は場所を教えてくれなかった。

野良猫は近所にとって、迷惑な生き物でしかないのだ。

 

怒りが込み上がる。

「人間が野良猫を作ったんじゃない、人間が責任持つべきじゃないの?いらなくなったからって、殺すの?」

 

私はまたバカなことをしようとしている。

兄はたぶん、私の性格を知った上で、助けてくれたんだと思う。

兄が保健所まで道案内してくれたのだ。

保健所まで兄はついてきてくれて、更に、保健所の人にコンタクトを取ってくれたのだ。

「私が保健所の人に話すのに。」

兄は、

「お前じゃ、ダメだ。」

と、いう。

きっと、兄はすでに分かっていたんだね。

保健所に来るのが遅すぎたと。

猫組織は、いなくなったと。

 

保健所の人からの詳しい説明を聞き、肩を落として帰ったのを覚えている。

兄と一緒に家路をたどる。

「兄ちゃん、いろいろ…ありがと。」

 

 

保健所の一件があってから、私は浦井先生の影響で勉強に集中するようになった。

 

猫の道…私の夢、私の憧れ、そして…村上さんと友達になる共通語だ。

 

あれから、猫の道を探すことはしなくなった。

猫の道より、

やりたいことが見つかったからだ。

 

夏目漱石の『こころ』から始まり、本を読むことに興味を覚えた。

村上さんとは、猫の道の話題がなくなり、本の話題が多くなった。

村上さんも、分かっていた。

可愛がっていた猫の組織が消え去り…私達は子供でなす術がないということ。

だから、少しずつ少しずつ、大人になっていかないといけないと…

 

あれから十数年。

村上さんは、保育士になり、

今は、中国に住んでいる。

彼女が帰国するのを私は心待ちにしている。

大人になった私達だけど、

童心を忘れずに、時には子供になって無邪気になりたいな。

それができる相手は、村上さんしかいないよ。