いつも空は、曇りときどき晴れ

自分史、人生曇り空ばかりだけど、ときどき晴れがちょうどいい時もある

お姫様でいるために

私が中学2年の時に、転入してきた女の子がいる。

名前は牧野さん。

第一印象は、一言でいうと『アイドル』だ。

えくぼが両頬にあり、

笑うとえくぼが目立つんだ。

ほっぺがふっくらしていて、頬はピンク色。

目はくりくりしていて大きく、まるでお人形さんみたいだった。

「可愛い子だなぁ」

しかも、彼女は自分の可愛さをよく認識していて、チャームポイントを堂々とアピールできるくらい明るく元気な子だった。

クラスの男子が騒ぐ。

牧野さんの周りには男子が集まり人気者だった。

可愛い子がきた。

笑顔の作り方が上手いなぁ〜なんかやっているのかなぁ。

そう思った。

 

放課後、美術室に行くと、なんとそこに牧野さんがいる。

 

あれ?

まさか、牧野さん、美術部に入るの?

牧野さんは私を見てニッコリする。

「美術部に入った牧野でございます!」

牧野さんが美術部に入部した。

転入生が美術部に…なんか分かんないけど、嬉しかったのを覚えている。

牧野さんは、明るく社交的な子で面白い。

部活に少女漫画を大量に持ってくる。

部員に配り、読み合う。

絵を描くのは好きだけど、漫画しか描きたくないわって言っていたな。

少女漫画でも、牧野さんが特に好きな漫画があった。

白鳥麗子でございます

なるほど、どうりで牧野さんの言葉使いが独特なんだなぁと思った。

この漫画だけは、読み終えても再度読み繰り返していた。

ついには、学校の教室まで『白鳥麗子でございます』を出して読んでいた。

 

よほど好きな漫画なんだなぁ。

 

牧野さんは私にも漫画をすすめてきた。

少年漫画ばかり読んできた私は、慣れない少女漫画に戸惑ったのを覚えている。

でも、『白鳥麗子でございます』は面白い漫画だと思った。

 

牧野さんの白鳥麗子語、独特で面白かった。

笑えた。

いつの間にか男子が寄ってこなくなった。

なんでだろう?

たぶん、白鳥麗子語が追っ払ったみたいだ。

牧野さんは主人公にかなり憧れていると分かった。

白鳥麗子になりきっている牧野さんは、はたから見たら個性的で変わり者として見られた。

でも、私は牧野さんが好きになった。

牧野さんは自分の世界観を持っていて、人を元気にさせてくれる輝きがあったからだ。

牧野さんみたいな子は好きだな。

 

美術部員の牧野さんと私は仲良くなった。

私の幼馴染のまゆみちゃん、それから村上さん。

瞳ちゃん。

5人は特に親しくなった。

土曜日は弁当の日。

部室で5人でお昼を食べた。

毎回気になっていたことがある。

牧野さんの弁当の中身だ。

毎回、弁当箱の中にはちぎられたレタスが入ってる。

それだけだ。

「牧野さん、何でいつもレタスなの?」

私が聞くと牧野さんは笑顔でいう。

「わたくし、ダイエットをしているんでございますの、オホホホ。」

腑に落ちない答えだ。

だからと言って、毎回レタスだけだなんて…

そんなもんなのかなぁと思った。

 

牧野さんは個性的すぎるせいか、クラスの女子にも男子にも避けられるようになってしまった。

相変わらず漫画を大事そうに抱えている。

牧野さんは言う。

「わたくし、お姫様になりたいんですの、オホホホ。」

私は笑いを堪えるのに必死だったのを覚えている。

牧野さんって、面白い子だ!

 

そんなある日、牧野さんが私を自宅に呼んでくれた。

牧野さんの自宅は、私の家から歩いて2分。

営団地だった。

藤原と同じ県営団地だ。

牧野さん宅に入ると、モデルのような美しい女性がいた。

ん?

「牧野さんのお姉さまですか?」

 

私の質問に美女は美しく笑った。

????

「ごめんなさいね、私はイクの母です!」

 

えっ〜!!

信じられない。

こんなに綺麗な人が…

うちの母とは大違いだなぁ。。

全然違いすぎる。

モデルさんみたいに背が高く美しい。

母は短足チビだからな。

 

牧野さんの部屋に案内された。

牧野さんらしい趣味の部屋。

「お姫様が住むお部屋みたいだね。」

私がいうと、

牧野さんはめちゃくちゃ喜ぶんだ。

「そうでございますの!お姫様になるのが私の夢でございます。」

牧野さんは可愛らしい人形のようで、母親に似ていると思った。

 

中学2年だった私には当時よく分かっていなかった。

牧野さんの部屋の隣に、代わる代わる男性が来ていて、牧野さんの母親と親密な関係をもっていたことを。

何人来ただろうか。

はっきりとは覚えていない。

玄関のドアの開け閉め音からすると、5人だろうか…

 

「牧野さんのお母さん、たくさんお友達がいるんだね、今日私が来てよかったのかな?」

 

牧野さんの表情がこわばる。

 

初めてだ、こんな顔した牧野さんを見るのは。

どうしたんだろう。

当時の私はウブで分からなかった。

 

しばらくしてから、牧野さんは笑顔に戻る。

「あのね、私ね、本当は牧野じゃないの。」

ん?

えっ?

普通語で話す牧野さん。

真剣な様子だった。

「6…7…8回かなぁ、忘れたけど、そのくらい、上の名前が変わったの。」

 

なるほど…

さっきのお母さんの友達は?

「恋人だよ。」

えっ?

全員?

わけがわからないよ、なんでだろう!

 

「私は帰らなくちゃ、夜の7時には帰らなくちゃ、、牧野さんは夕飯は?」

まさか、レタスじゃないよね…

 

「適当に…ポテチがあるから、大丈夫でございますの、気をつけて帰るんでございますのよ。」

 

夕飯にポテチ…

 

帰るときに、気になって、牧野さんの母親を探した。

知らない男と親しげだ。

 

牧野さんに聞く。

「あの男性、恋人?」

 

牧野さんは、気まづそうにいう。

「新入りさんかしら…」

 

わけがわからない!

牧野さんはポテチ食べて寝るの?

足りるの?

平気なの?

子供の隣の部屋で…母親は無神経だわ!

 

 

信じられない家庭事情を目の当たりにした。

人それぞれ違う家庭環境。

牧野さんの家庭環境は、まだ14歳には酷だと思った。

 

 

土曜日の部活の日。

私は牧野さんにお願いをした。

「弁当を交換して!」

牧野さんは交換してくれた。

レタス弁当。

彼女はいつもどんな生活をしているんだろう!

足りてるの?

 

 

日曜日に我が家へ牧野さんを呼び、家族と一緒に御飯を食べた。

うちの家の食事はショボいけど、ポテチよりはマシだと思った。

 

「牧野さんは、なんでお姫様になりたいの?」

 

牧野さんは笑う。

「なりたいんじゃなくて、わたくしは、もうお姫様そのものでございますの。」

 

そっかぁ、そっかぁ。

 

牧野さんは私とまゆみちゃんと村上さん、瞳ちゃんを誘って、すごい場所に連れて行ってあげると言った。

 

しかも、電車で行く場所。

 

牧野さんにとにかくついていく。

見上げると看板には原宿駅と書かれてある。

なに?!!

東京に来てしまったらしい。

牧野さんは嬉しそうに私達を誘導するのだ。

 

ホコ天だ。

 

「何か、こわいよ…」

まゆみちゃんが言う。

私は牧野さんについていくしかなかった。

牧野さんをもう少し知りたいと思ったからだ。

牧野さんは言う。

「これが生のロックバンドよ!音に合わせて大声出すと気持ちいいわよ!」

 

牧野さんが狂ったように踊り叫んでいた。

お姫様から抜け出し、本性を出す場。

 

ロックバンドの音に慣れず耳を両手でふさぐ。

 

少しずつ両手を離して、

ロックの音を聴いてみる。

 

うん、頭が痛かったけど、だんだん、小さなことがどうでもよくなっていく感覚だ。

嫌なことが忘れられる。

牧野さんはしかも踊っているし、なおさらだろう。

牧野さんの素が爆発したみたいだ。

これが本当の牧野さんだ。

 

 

中学3年、進路選択で牧野さんと担任が揉めた。

牧野さんは今回頑固に譲らない。

牧野さんの平均偏差値は38ぐらい。

40をこえれるかどうかだ。

でも、牧野さんは偏差値60近くの女子校に行きたいという。

なぜ、そこにこだわるの?

 

「わたくし、お嬢様なので、白百合学園にいくのですわよ。」

 

「確かに、牧野さんはお嬢様だし、お姫様だよ、でも、入れなかったらどこへ行くの?」

 

私が現実的な質問をする。

 

白百合学園に行けないのなら、それまででございますわ。」

 

う〜ん、わからない…

それまででって?

 

牧野さんはお姫様で居続けるために、絶対白百合学園に入らなければならないという。

 

なぜ、彼女はお姫様にこだわるのだろうか…

そうか、白鳥麗子だ。

 

もし、白百合学園に不合格になったら?

牧野さんはきっと、高校に行かないかもしれない。

もしくは…

 

偏差値60の白百合学園に入るのは無理だ。

担任の見解が正しい。

どうしようか…どうしようか…

今から勉強しても間に合わない。

私は、学校の図書館で高校偏差値表を調べた。

偏差値40くらいで、お嬢様高校はないかな?

よく分からない、分からない…

 

担任の先生に質問をしてみた。

偏差値40くらいで、お嬢様高校はないかどうか。

担任も牧野さんのことで悩んでいたみたいで、積極的に調べてくれた。

 

あった!

あるある、あるじゃないか。

東京に!

 

「牧野さん!牧野さん!他にも、お嬢様高校あったよ、しかも、牧野さんなら行ける高校だよ!」

 

白百合学園に比べ、知名度の低い高校だった。

 

牧野さんは残念な顔をして首をふる。

「わたくし、白百合学園しか考えておりませんの。」

 

牧野さんの意志は堅かった。

ここまで白百合学園に入りたい気持ちが大きいなら、白百合学園に挑戦するしかないでしょ!

 

「分かったよ、私は予定より低い高校に受験することになったから、時間にゆとりがある、一緒に勉強しよう。」

 

私の自宅に早朝から牧野さんと勉強するようになった。

7時に私の自宅で朝ごはんを一緒に食べて、それぞれ登校。

私は渡辺さんを迎えに行き、渡辺さんを学校へ連れてくる。

 

放課後、部活動を休み、牧野さんを私の自宅に呼んだ。

私の部屋で一緒に勉強をする。

夜、7時の夕飯を牧野さんと一緒に食べた。

夜23時まで一緒に勉強した。

夜遅く帰っても、牧野さんの母親はいないという。

牧野さんの母親は、牧野を放置している状態。

私の両親も気づいたせいか、牧野さんをあたたかく迎えてくれた。

 

偏差値40の牧野さんが偏差値60の白百合学園に挑戦する。

バカだなぁという人はたくさんいた。

クラスの同級生に言われていた牧野さん。

それでも、意志を曲げない彼女を…なぜか私は凄いなって、素直に思えたかな。

度胸あって、意志かたし、いいじゃないか!

 

 

冬の2月、牧野さんは白百合学園一本で勝負する。

併願校は受験しないという彼女の強い意志。

 

 

結果が気になって仕方がない。

牧野さんはどこ?

牧野さんは?

あれ?

思わず席を立つ。

教室には、牧野さんがいないんだ。

 

 

「先生、牧野さんはどうしたんですか? 高校は?」

 

担任が渋い顔をして答える。

「牧野さんは、白百合学園を受験して不合格通知がきました、今は自宅にいるかと。」

 

私は、下校時間に牧野さん宅にそのまま向かった。

牧野さん宅のドアをたたく。

 

ガチャ。

牧野さんが普通の顔で出てきた。

笑顔はない。

白鳥麗子でもない。

あれ?

「牧野さん、残念だったよね、つらいよね、つらいよね、あんなに頑張ったのに、私の力不足でごめん。」

 

「じゅんかちゃん、今までありがと、受験できただけでよかったよ…休みたいんだ、休みたいんだ。」

 

私は大きくうなずき、何度も何度も牧野さんに頭を下げた。

頭を下げなければ…自分の気がおさまらなかったからだ。

 

「じゅんかちゃん、私ね、お姫様でいたかったの…どうしても、どうしても、ありがと。」

 

「お母さんは?どこ?」

 

無言な牧野さん。

どうやら、ずっといないという。

 

「牧野さん、いつでもうちへ来なよ!待ってるからさ、ね、ね、絶対だよ、約束。」

 

牧野さんは、小さく微笑み、こっくりした。

 

 

でも、あれから彼女は一度も我が家へ来なかった。

両親も心配していた。

学校にも来なかった。

再度、牧野さん宅へ行ってドアを思いっきり叩いたけど、反応がなかった。

 

春がきて夏になる。

 

私は高校1年生、ボランティア活動のため秋津療育園に行く。

牧野さん宅は空っぽになった。

牧野さんはどこへ?

中卒の牧野さん、就職できたかな…

気になっていた。

 

彼女はなぜ白鳥麗子に憧れ、なりきろうとしたのか。

理由があるはず。

私が小学生の時、授業中やっていたことがある。

空想と想像。

それは、つまらない授業から逃げたくて始まった。

 

はっと気づく。

私の背筋がこおる。

涙がどんどん溢れ出す。

言葉にならないくらい、後悔している。

牧野さん、ごめん。

今頃気づいた。

遅かった。

遅かった。

ようやく高校になって、気づくなんて。

牧野さんがいなくなってから気づくなんて!

ごめん、ごめんね、ごめんね。

 

牧野さんは、ずっとずっと架空の世界にいたんだね?

架空の世界にいることで、現実の生活から自分を守っていたんだね…

白鳥麗子になりきった理由。

お嬢様でいなくてはいけない理由。

白百合学園に入らなければならない理由。

それは、架空の自分にとことんなりきるためだね?

そうすることで、母親とたくさんの男性らとの生活から逃げられるからだよね?

生きるための、精一杯のあがき。

 

牧野さんは、どこですか?

牧野さんは、どこですか?

 

ごめん、ごめん、高校生になって気づいたよ。

こんな自分が、看護師になりたいなんて。

笑えるよね。

気づいたのが遅すぎた。

 

お姫様になれば、

幸せな自分になれるって言ってたよね。

それが、自分の逃げ道だと信じていたんだね?

唯一の逃げ道だった。

 

牧野さんは、この世から消えてしまった。

白百合学園に不合格になったら、それまでで…

その言葉をもっともっと考えるべきだった!

はやく、はやく、気づいてやれば。

私は、すごく、すごく、後悔しているんだ。

ずっと側にいたのに、気づいてやれなかった。

白百合学園受験を押してごめんなさい。

まともに考えて、止めるべきだった。

ごめん、ごめん!

ごめんなさい。

 

なぜ、私が気になる友人は、先に空へいくのだろう。

氏家さん、牧野さん。

2人の記憶を私は生きている限り、頭にきざみつけるから。

毎日、空を見上げているんだ。

忘れないよ、忘れないよ。

こちらこそ、ありがとう。

忘れない。