いつも空は、曇りときどき晴れ

自分史、人生曇り空ばかりだけど、ときどき晴れがちょうどいい時もある

人の痛みと苦しみには、即座に解決するべし

看護師時代。

学生の頃、看護学ナイチンゲール書で学んだことの中で一番心に響いた内容がある。

それは、人の痛みと苦しみについてだった。

痛みと苦しみは身体的苦痛だけをさすのではない。

身体的苦痛より、もっと辛い辛い痛みがある。

それは、心の痛みである。

心の痛み。

 

医療者は最優先するリストをあげている。

第1に生命の危機管理

第2に疼痛と心の痛み

 

深夜勤務、42人の患者に対し看護師は3人体制。

 

心臓血管外科と呼吸器外科病棟。

手術後管理や緊急手術、緊急入院、癌末期の疼痛コントロールケア、狭心症発作の管理、植物状態の患者管理、人工呼吸器管理、急変などなど、戦場のような病棟だった。

 

ある患者がナースコールを押す。

訪室すると、患者は怯えている。

不眠と不安、恐怖…骨盤の痛みを訴えていた。

病棟にはたくさんのリスクのある患者がいる。

分かっている。

 

私は、迷わずドクターコールをする。

ドクターによっては、痛みや不眠や不安は重要視しない。

反面、生命の危機の兆候には敏感だ。

ドクターは私の要求に面倒な言葉を発する。

電話越しで私に言った。

「そんなの、病棟に余ってる鎮痛薬でも渡しとけ!」

 

私の腹が煮え立った。

なんなの!!

私も譲るわけにはいかなかった。

電話越しで言い返す。

「先生、今目の前で患者が苦しんでいるんですよ!

泣きながらもがいているんですよ!

それを朝まで我慢しろというんですか!

先生には我慢できるんですか!」

 

私のしぶとい説得で当直を病棟に連れてきた。

はやく、はやく、はやく、患者ががんばって待っているんだ!

 

当直に私が依頼をする。

肺癌の骨盤転移による激痛。

痛みスケールは9

まだ、モルヒネ導入をはかっていないため、今夜はボルタレン50mgの座薬をお願いします。

 

不眠・不安・恐怖に対し、鎮静剤と睡眠導入薬、念のために睡眠薬長時間作用のものを処方してくれますか。

 

処方箋がでた。

普通は処方箋は受け付けにあるカゴに入れる。

それをヘルパーが薬剤室へ運び、

薬剤室でできた薬をヘルパーが後から病棟に持ってくる。

所要時間3時間。

 

3時間も待ってられない。

なぜなら、病室で痛みと不安と恐怖で苦しむ人がいる。

放置して後回ししてしまう医療者はたくさんいる。

でも、ナイチンゲール書に書いてあることを思い出すと、痛みのある人に即座に対応するべきだと思った。

 

リスクを背負い、深夜勤務の2人の看護師を残して、私は薬剤室へダッシュした。

思いっきり走った走った。

階段を使いニ段跳びで走る。

汗びしょびしょだった。

薬剤室に処方箋を提出する。

 

なかなか薬剤師が出てこない。

調剤室の窓を叩いた。

しばらくして、薬剤師が顔をのぞかせる。

何かを食べている様子。

「今、休憩中、あと30分待ってて。」

悠長に休憩室でお菓子を食べる薬剤師。

私が30分もここで待てと?

リスクを背負って病棟から出てきたのに?

痛みと恐怖で苦しんでいる人がいるのに?

即座に対応するべきでしょ!

 

私はまた薬剤室の窓を叩いた。

さっきの女性の薬剤師が出てきた。

めんどくさそうに…

イライラしている自分がいる。

抑えろ、抑えろ、抑えろ。

冷静になるんだ。

「主治医が緊急処方したもので、今病棟で苦しみもがいている人がいるので、早急に調剤してほしい。」

女性の薬剤師は私の言い分に反論する。

「たかが痛み止めでしょ、それくらい朝でもいいでしょ、今は深夜だよ、こんな時間によほどのことがない限り調剤はしないわよ。」

 

カチンときた。

頭に血がのぼる感じだ。

冷静だったはずが、だんだん声をあらげてしまう。

「たかが痛み止めですって? 疼痛増強によって呼吸状態が急変することがあります!それに、痛みと不安で夜中に1人で闘っているんですよ!その辛さを想像できませんか!痛みと不安は優先順位2番ですよ、一刻も早く痛みと不安を取り除いてあげましょうよ、辛いんですよ、分かってくださいよ!」

 

「それでも分からないなら、主治医と当直をここに呼びます。コールします!いいですね?」

 

もう、私には時間がなかったのだ。

必死だった。

冷静さを失っても、よかった。

 

薬剤師の人は嫌々調剤室に向かった。

薬剤室で手に入れた薬を持って私は走り出した。

まず、病棟の様子が気になって仕方がなかった。

それから、痛みと恐怖を訴えている患者のことが気になって仕方がなかった。

気になるたびに、走るスピードが増した。

病棟につき即座に心電図モニターを確認する。

ほっとした。

重症患者や癌末期患者、植物状態の患者を見回した。

安定している。

安堵だ。

確認が済むと、すぐに痛みと恐怖を訴える患者のところに駆けつけた。

処方されてから20分かかった。

まぁ、3時間よりはいい。

患者にボルタレン50座薬をSP。

睡眠導入薬と鎮静剤を内服させた。

怯えている患者の手を握る。

必ず痛みが消えるから…眠れるから…怖くない…怖くない…

 

1時間後、痛みと恐怖を訴えていた患者は、ぐっすり入眠した。

眠っている様子を見て安心した。

 

人の痛みに限らず、悩みや苦しみ、不安、恐怖などといった感情を医療者は即座に対応するべきだと思う。

そこの部分をないがしろにする傾向が増えているような気がする。

相手の立場になること。

病気になると分かるはずだ。

私は、プライベートでも気をつけている。

大切な人が苦しみ泣いているなら、私は何があろうとも、大切な人のために即時に全力を尽くす。

はやく、はやく、苦痛から解放されてほしいから。

大切な人への想いがそうさせる。

看護学から日常の生活で生かされることは多い。

看護学を学んできて良かったな。